アレックス・カー
アレックス・カー/1994年8月取材

原点忘れた日本人



日本を愛す アメリカ人
自然なぜ破壊する



アレックス・カーさん(42)は、父親がアメリカ海軍に所属する弁護士だったため、十二歳の時から日本に住むようになった。

ちょうど東京でオリンピックが開催され、日本は高度経済成長の真っ只中にあり、先進国に追いつけ追い越せと必死で頑張っていた頃である。

その頃、彼は日本中を一人旅して歩いた。彼の見た日本の山や川には、まだ自然がいっぱい残り、人々は外国人の彼を心優しく迎えてくれた。なかでも彼が一番好きだったのは日本の家で、瓦屋根の美しさや路地から聞こえる下駄の音などは、彼の心をとらえて離さなかった。

それから二十年間などの間に、日本の自然はガラリと様変わりしてしまった。雑木林は伐採され、植物や動物の息づかいが聞こえてこなくなった。山の奥深くまで道路が作られ、地滑り防止のコンクリートが美しい岩肌を覆い、霧さえ湧き上がってこない。

最近「日本学」が再びブームとなり、多くの外国人が京都を訪れる。コンクリートとアスファルトジャングルの中に、ポツンと残された人口の庭。彼等は京都の庭園を眺めて、それが日本の自然だと思っている。

アレックスさんは、日本の自然はもっと不思議なもので幻想的で、まさしく「神」がただよう聖域だと主張する。

火山性の山と豊かな雨林のために多くの樹木が自生する日本の自然は、世界でも最も美しい国であった。その美しい自然をなぜ日本人はかくもたやすく破壊するのか。

アレックスさんは日本の秘境、四国の祖谷渓に茅葺き屋根の家を持ち、京都府亀岡市の古い天満宮に住んでいる。彼は、日本人は原点にもどって、自国の文化をもっと大切にするべきだと著書「美しき日本の残像」(新潮学芸文芸賞受賞)のなかで訴えている。

日本文化を愛する姿勢とその憧憬の深さによって、彼は平成の小泉八雲とも呼ばれている。

(宮崎みどり)


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