川口 由一
耕さず肥料・農薬使わず/1995年4月取材


「川口由一・土から生命の教え」

奈良と三重県の県境、室生、赤目国立公園の静かな山あいの中腹に「赤目自然農塾」がある。

奈良県在住の川口由一さんは、長年農業に従事し、農薬による薬害で体をすっかりこわした。以来耕さず肥料をやらず、雑草と一緒に稲を育て、自分なりの自然農法を確立した。その川口さんの生き方に共感し、赤目に休耕田を借りて無償で田畑を提供した大阪府の傍島さんや、その他の多勢の支持者たちの熱意に支えられて自然農の実践地「妙なる学びの場」がスタートして今年で五年目になる。


草ぼうぼうだった山の段々畑はよみがえり毎年黄金色の稲が実り、川口さんの自然農法の教えを受けに今では三百人ほどの人が日本全国から集まってくる。

ここでは原則として、お米をつくるという事と、学びの場であるという事以外に何の制約もない。申し込めばだれでも自分の田んぼが自由に借りられる。月謝や会費などはなく、田んぼの借り賃も各個人の思いに一任されている。多く払える人は多く払い、払えない人はそれなりのものを「赤目自然農基金」として世話役の柴田さんに払い込む。

田畑の世話も近くの人は頻繁に通ってもいいし、遠く北海道や山形、福島、東京、四国などの人は二、三か月に一回でもいい。この赤目で何を学ぶかは、まったく個人の自由意思にまかされている。春、夏、秋、冬と四季のめぐりの中で、人々は「土」に親しみ、自然と対話し生命をはぐくむうちに、いつのまにか川口さんの「生命の教え」が身についていく。

「生命界は共存共栄、生かし合いの関係になっていると同時に、食べて食べられて、殺し合いの関係でもあります。何もかもそうなっているから、我が命をまっとうすれば、そうなるのです……」

耕さず、肥料、農薬を用いず、草や虫たちを敵としない。自然の営みに沿った農を実践しながら毎年、川口さんの田んぼで草たちと一緒に稲が見事な稲穂をつけている。

赤目では全く初めて農業をする人も、ベテランの農家の人もみんなが同じ目線で一生懸命、川口さんの話に耳を傾ける。今年も、もうすぐ「もみおろし」が始まり、赤目の田んぼの新しい一年が始まろうとしている。
(平成7年4月。赤目自然農塾五期生 宮崎みどり)


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取材メモ

赤目自然農塾で川口由一さんの自然農法を学んでから、ほぼ10年の月日が経った。あのころをふり返ってみると懐かしい思い出がいっぱいだ。今はどんな風になっているのだろうか、一度たずねてみたい。
(2005年11月、宮崎みどり)
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