おっこ山・めっこ山
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神出町には、大きさもその姿もよく似た二つの山が東と西に1kmの間隔で並んでいる。東側の山が雄岡山(おっこつやま)で標高241メートル。西側が雌岡山(めっこつやま)で標高249メートル。どちらもなだらかな円錐形をした美しい神南備山だ。それぞれ神出富士・明石富士と美称されているが、地元の人はごく簡単に、おっこ山(写真左)・めっこ山(写真右)と親しんで呼び、神々が降臨し鎮座した山として今でも信仰している。
神出町は田畑とそれを潤すたくさんの溜池が点在しているのどかな田園地帯だ。農作物を育てるには水がかかせないが、「それにしても溜池だらけだな」と素人目にも感じるぐらいに池が多い。地図を広げてみればすぐにわかるが、「この辺りは沼地だったんでは」と思うほどに池が多いのが見てとれる。
人工の溜池なのか、古代から自然にあった池なのかぼくには解らないが、きっと神出町の土地はどこを掘っても水が湧き出すのではと思った。
二つの山とその麓に広がる溜め池を見た磐座探検隊員の一人は、おっこ山は土を盛り上げて造った人工の山ではないかと言った。そして、掘った跡地がいくつもの池になったのではというのだ。ぼくもそれがあんまり的外れではないように感じた。 |
おっこ山の雄岡神社
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おっこ山・めっこ山はハイキングコースにもなっていて登山道もよく整備されていた。おっこ山の登り口は東側と西側の二ヶ所にあるが、ぼくたちは西側から登った。雑木に囲まれた山道は頂上までほとんど真っ直ぐで、10分ほどで簡単に登ることができた。
山の上は小さな広場になっていて、その中央に小さな石造りの祠がひとつ、ぽつんとあった。磐座があると期待して登ってきたのでちょっとがっかりだ。
それでもどこかに絶対あるはずだと付近の雑木をガサガサとかきわけて捜してみたが、何も見当たらない。おかしいな、岩のひとつぐらい転がっていてもいいはずなのにと思うのだがそれすらもない。
とにかく、砂と土ばかりで出来た山という印象。やはり何かの目的のために、この場所に土を盛り上げて作った人工の山ではないかと想像したのだが、興味のある方はぜひ登って自分の目で確かめてください。
神々が降臨した山と伝えられている「おっこ山」の、祠には木花佐久比賣命(このはなさくやひめ)が祀られている。旱魃の年には村人はこの女神に雨乞い祈願をするようだ。どんな雨乞いかというと、ご神体の女神像にクロベ(黒稲)を塗り真っ黒にするらしい。すると女神が墨を落とすために雨を降らすのだという。
「おっこ山(雄岡山)」には男神が祀られていると思っていたが、女神が祀られていた。それなのにどうして雄という漢字が使われているのだろうか、という疑問を抱きながら、「めっこ山」(雌岡山)へ。 |
めっこ山の磐座群
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『おっこ山』から『めっこ山』までの距離は約1キロほど。道中に釣堀があったり、桜並木があったり、牧場があったり、テニスコートがあったりと、広々とした町の特色をうまく利用した施設を見ながらのんびり歩いていると、道路の右側にコンクリートで出来た新しい大きな鳥居が建っていた。鳥居の横の立て看板に「めっこ山・登山道」と書いてある。
しかしここは車で登るために新しく作られたアスファルト道なので、歩いて登る人はこのもう少し先にあるハイキング専用の旧登山道に行ったほうがいい。こちらの登り口には古くて大きな鳥居があって雰囲気がとてもいい感じだ。もちろん地道なのがうれしい。
山の頂上に神社があるところを考えると、ここは登山道というよりは『参道』といったほうが適切かもしれない。参道は赤土が剥き出しで、石ころがごろごろと転がっていたり、張り出した木の根がちょうど階段状になっていたり、森の木々の間からはウグイスの鳴き声が聞こえてきたりとなかなかのもの。そしてこの参道は子午線上にある。
しばらく歩いていると、中腹の「お旅所」というところに玉垣に囲まれてきちんと整備された磐座を発見(写真右)。この他にも、頂上までの道中に小さな神社や磐座、湧き水の出ているところが2、3ヶ所あった。やはりここはかなり古い時代から磐座祭祀をしていた山らしい。 |
神出神社
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鳥居から30分も登れば頂上だ。南側の展望がおおきく開けていて、六甲の山並みやその向こうに明石海峡や淡路島が見渡せる。ハイキングにきている人も多く、おっこ山と違ってとてもにぎやかだ。
山頂には、立派な社殿の『神出神社』が建っている。御祭神が、この『めっこ山』に降臨したと伝えられているスサノオの命・クシナダ姫の二神。そしてその子供のオオナムチ。ほかにもこの二神から多くの神々が生まれたので、この土地を神出町というようになったと伝えられている。
ぼくは、このたくさんの神が生まれた神出の土地の「神」とは、この辺一帯に潤っている「湧き水」のことではないかと推理した。神出の町は溜池だらけだし、このめっこ山の山頂近くにも水が湧いている処があった。今はコンクリートで囲われてしまっていて水量も豊富ではないようだが、古代から水に恵まれていたことは確かだ。木も、岩も、水も神さまといわれていた神代の時代、どこを掘ってもとくとくと水の沸いてくるのをみて昔の人は『神出』と名付けたのではと思うのだがどうだろう。 |
裸石・姫石神社の磐座
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今回の磐座探検のメインはこの神出神社の裏側を少し下ったところにある裸石神社と姫石神社の陰陽の磐座だ。階段伝いなので迷うこともない。一本道を降りていくと道が二股になっていて右側が裸石神社。左側が姫石神社。二つの神社の間隔は50メートルほど。
まずは姫石神社のほうへ行く。写真のように社殿はなく、5つほどに割れた岩が御神体だ。もともとはひとつの岩だったのが割れてしまったような感じがする。
全体の大きさは、幅7メートル、奥行き5メートル、高さ2メートルほど。中央の平らな石を誕生石と呼んでいて、この石の上で神が生まれたと伝わっている。
一番左側の石の隅に女陰をかたどったと見られる40センチほどの石組みがあるのでぜひ見逃さないように。ここから水が流れていたような形跡も残っている。しかし、組み石が割れてしまっていて、その上からセメントで補修してあるのが残念だ。
次は裸石神社へ。ここは姫石神社と違って大正初期に社殿が建てられている。
もともとは「彦石」という名で呼ばれていた自然石の男根を、姫石神社と同じように雨ざらしのまま玉垣に囲んで祀っていたらしい。
現在は、写真のようにコンクリートの祠の中に、これまたコンクリート製のでっかい男性器と女性器が入っている。いかにもと思わせる人工的なもので非常にがっかりした。
ほんとうは、ここに大きくそそり立った男性器に似た自然石があったのだろう。それが誰かに持ち去られたか、風化して崩れてしまったかしたので今の形になったのかも知れないがほんとうに残念だ。
祠の中にはあわびの貝殻がいっぱい入っていた。貝殻に恋人と自分の名前を書いてここにお供えすると恋が叶うといわれている。が、どうして「あわび」なんだろうか? |
おっこ山・めっこ山
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おっこ山、めっこ山は非常によく似た形状の山なので、何か意味ありげに思えた。特におっこ山は最初に書いたように人工的な山ではないかと思わせるものがある。瓜二つの山がきれいに東西に並んでいるのも不思議だなぁ、と考えながらめっこ山を降りた。
しばらく歩いてめっこ山の方を振り返ると、夕日が沈みつつあった。その光景を見ながらひとつの考えがひらめいた。
夏至か冬至、もしくは春分・秋分の日に、めっこ山からおっこ山をみると、東側にあるおっこ山の頂上から太陽が顔を出す。そして同じ日の夕方に、こんどはおっこ山から西側のめっこ山を眺めると、その頂上へ太陽が沈んでいく。古代の人は、稲作をするためにこの神出町の平地に人工の山を造り、季節の観測していたのかもしれないと。 |
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