和歌と俳句

後撰和歌集

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忠房朝臣
いつしかの音になきかへり来しかども野邊の浅茅は色づきにけり

忠房朝臣
ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれて泣くを見せばや

よみ人しらず
関山の峰の杉むら過ぎ行けど近江は猶ぞはるけかりける

よみ人しらず
思ひ出でておとづれしける山彦のこたへにこりぬ心なになり

よみ人しらず
まどろまぬものからうたてしかすがにうつつにもあらぬ心地のみする

返し よみ人しらず
うつつにもあらぬ心は夢なれや見てもはかなき物を思へば

小野道風朝臣
限なく思ひいり日のともにのみ西の山邊をながめやるかな

忠房朝臣
君が名の立つに咎なき身なりせばおほよそ人になしてみましや

返し 女五のみこ
絶えぬると見れば逢ひぬる白雲のいとおほよそに思はずもがな

敦忠朝臣
けふそへに暮れざらめやはと思へども絶えぬは人の心なりけり

大輔
いとかくてやみぬるよりは稲妻の光の間にも君を見てしか

朝忠朝臣
いたづらに立ちかへりにし白浪の名残に袖のひる時もなし

返し 大輔
何にかは袖の濡るらむ白浪の名残ありげも見えぬ心を

蔵内侍
ちかひても猶思ふにはまけにけり誰がため惜しき命ならねば

道風
難波女にみつとはなしに葦の根の夜の短くて明くるわびしさ

道風
かへるべき方もおぼえず涙河いづれか渡る浅瀬なるらむ

返し 大輔
涙河いかなる瀬よりかへりけむ見なるる身をもあやしかりしを

敦忠朝臣
池水のいひいづる事のかたければみごもりながら年ぞへにける