藤原節信
はるばるとやへのしほぢにおく網をたなびくものは霞なりけり
曾禰好忠
三島江につのぐみわたる蘆のねの一夜のほどに春めきにけり
能因法師
心あらむ人にみせばや津の国の難波わたりの春のけしきを
よみ人しらず
難波潟うら吹く風に浪たてばつのぐむ蘆のみえみみえずみ
権僧正静圓
あはづののすぐろの薄つのぐめば冬たちなづむ駒ぞいばゆる
源兼長
たちはなれ沢辺になるる春駒はおのがかげをや友とみるらむ
藤原長能
狩にこば行きてもみまし片岡のあしたの原にきぎす鳴くなり
和泉式部
秋までの命もしらず春の野に萩のふるえをやくときくかな
藤原範永朝臣
花ならでをらまほしきは難波江の蘆のわかばにふれる白雪
平兼盛
梅が香をたよりの風や吹きつらむ春めづらしく君がきませる
大中臣能宣朝臣
梅の花にほふあたりの夕暮はあやなく人にあやまたれつつ
前大納言公任
春の夜のやみにしなれば匂ひくる梅よりほかの花なかりけり
大江嘉言
梅の香をよはの嵐の吹きためてまきの板戸のあくるまちけり
清原元輔
梅の花かはことどとに匂はねど薄く濃くこそ色は咲きけれ
よみ人しらず
わかやどの垣根の梅のうつり香にひとりねもせぬ心地こそすれ
前大納言公任
わかやどの梅のさかりにくる人はどとろくばかり袖ぞにほへる
和泉式部
春はただ我が宿にのみ梅さかばかれにし人もみにときなまし
賀茂成助
梅の花かきねににほふ山里は行きかふ人の心をぞみる
藤原顕綱朝臣
梅の花かばかりにほふ春の夜のやみは風こそうれしかりけれ
素意法師
梅が枝を折ればつづれる衣手に思ひもかけぬ移り香ぞする