和歌と俳句

高橋淡路女

ぬかるみに下駄とられけり酉の市

一双の屏風の源氏物語

泣きながら一人枯野を歩きけり

淋しさに馴れて住む身や帰り花

冬ざれの道に拾ひぬ空財布

小夜時雨煮るもの買うて戻りけり

紅葉燃ゆ音こまごまと焚火かな

仲見世歩む我れや落葉の降るを見し

日当らぬ家悲しけれ石蕗の花

蕪汁に足ること知りて憂ひなし

風呂吹に杉箸細く割りにけり

よく切れる鋏おそろし水仙花

熊手店枯木のもとにきらびやか

ひたすらに夫をたよりや根深汁

門扉ひたと閉ざせる寺や除夜の鐘

まのあたりうつろふ日ざし日向ぼこ

掃きとるや落葉にまじる石の音

茶の花のしべを見せたる盛りかな

我が前に坐る子小さき炬燵かな

炭小屋にひそむ子二人かくれんぼ

もの縫ふや寒紅売を心待ち

雑炊にともし火ひくく下ろしけり

水仙やそり合ひし葉に花盛り

枯蓮に大きな魚の見えにけり

戸をしむる音あらあらし冬木宿