與謝蕪村
夏
舂や穂麦が中の水車
木がくれて名誉の家の幟哉
三井寺や日は午にせまる若楓
芍薬に紙魚うち払ふ窓の前
しののめや露の近江の麻畠
しののめや雲見えなくに蓼の雨
蚊の声す忍冬の花散るたびに
夏山やうちかたぶいてろくろ引く
蚊屋の内に朧月夜の内侍かな
鮒ずしや彦根の城に雲かかる
鮓をおす石上に詩を題すべく
鮓の石に五更の鐘のひびきかな
射干して囁く近江やわたかな
蚊屋を出て奈良を立ちゆく若葉かな
いづこより礫うちけむ夏木立
朝河の西し東しす若葉哉
若竹や是非もなげなる蘆の中
さみだれや鳥羽の小路を人の行
皐雨や貴布禰の社燈消る時
さみだれの大井越たるかしこさよ
さみだれや大河を前に家二軒
早乙女やつげのおぐしはささで来し
涼しさや鐘をはなるるかねの声
雨後の月誰そや夜ぶりの脛白き