和歌と俳句

秋元不死男

鋸に乗られて支ふうまごやし

恋猫を墓ある闇の方へ追ふ

熟れて落つ春日や稼ぐ原稿紙

松の花チエホフ訳す山の裾

壺に椿貧が先ゆく啄木忌

すみれ踏みしなやかに行く牛の足

花吹雪悲嘆に遇はぬ母の死後

裸婦臥かす画室に紅き梅一枝

恋猫の四ツ足踏んで溝長し

山吹や八年泰き被爆の池

つばくろや人が笛吹く生くるため

すいすいと電線よろこび野へ蝌蚪

啓蟄や幼弱かくる近視鏡

引く波に貝殻鳴りて実朝忌

大鍵の倉庫を閉ざす花吹雪

むらさきの飛燕の捌人通り

海浪の木の間に倒る実朝忌

や裾回を赤く火の山は

第三の恋猫鳴いて樹が黒し

書き呆けて恋猫横丁昏れるかな

さくら照る食へざるの弁流麗に

卒業や楊枝で渡すチーズの旗

朝月に高名ならぬ蝌蚪泳ぐ