和歌と俳句

富安風生

1 2 3 4 5 6

盆の月暫し燈籠と重なりぬ

蜻蛉釣にまじりて一人家恋し

麻刈りし畑ひろびろと蜻蛉釣

朝寒や機鑵車ぬくく顔を過ぐ

風出たる椎の大樹や露時雨

中元や老受付へこころざし

雨の軒七夕竹を押しつけし

夜もすがら騒ぐ芭蕉や秋の宿

しみじみとの宿かな水の音

車窓より雪の遠嶺やの旅

野分やゝ衰へし園を一めぐり

稲の穂の向き合ひ垂るる小畦かな

霧の奥山見え来るや鳥威し

法師蝉かたみに鳴ける二つかな

松の上に蜻蛉高き日和かな

秋草に影まじはれる大地かな

蕋の黄を堅く啣みぬ秋海棠

菊人形を崩せしあとの空地かな

向き定めて流れそめたる木の実かな

燈籠の西日に晒るる二階かな

朝顔や檜垣にのりししだり咲

しだり或は松のしげみより

何処より木犀匂ふ対座かな

高黍の門辺に立てば初嵐

夕空のなごみわたれる案山子かな

茸狩の足ごしらへや女達

二本の七夕竹のつれさやぎ

かたはらに竜胆濃ゆき清水かな

新涼の俄に到る草廬かな

さわさわと松風わたる芙蓉かな

うすうすと今日仰がれつ鰯雲

稲妻のかかりて高き鶏頭かな

垣外のよその話も良夜かな

草の戸を立ち出でて見れば渡鳥

秋晴や宇治の大橋横はり

銀閣寺門前の田の案山子かな

粟垂るる修学院の径かな

鉦叩きたたきやめたる虫の声

山房にほしたる の名を知らず

いろいろのほしたる庵かな

提げ来るは柿にはあらず烏瓜

八月の桜落葉を掃けるかな

一ひらの濃ゆき紅葉を手向かな

うすもみぢ仏の墓をいづれとも

渡り来し橋を真下や紅葉茶屋

狼藉と唐黍をもぎ尽したり

葉鶏頭の門まで来る出水かな

一霜にくだちやんぬ鶏頭花

やいつしか園の径ならず

秋水に林の如き藻草かな