火塚めぐり冬山の線ゆるやかなり
枯山の火塚にのぼり天はるか
火塚累累枯山風をとほくしぬ
山のぼるこころ枯野にへだたりぬ
うつされし木の芽はいまだ光なさず
耐寒行軍蘆間の雪の消えじとす
夜を浅み芽ぶかむ闇の木にまとふ
子を先に椿べに裂く路に出づ
あなにくや土に芽を裂くチユーリツプ
山茱萸の黄に染み紫煙ゆらとある
ねこやなぎうぶ毛かなしく生えそろふ
浜ぐみの芽のしろがねにくもり来つ
松の芽や奈落の潮に足ふるはす
かげろはむ伊良湖の貝をふところに
蜑が家の椿は紅をひめて咲く
野霞の湧くより蛙孵りけり
風中に我が立てて藤の花狂ふ
すずめ清閑紫陽花ふとき芽を土に
来て丘に松蝉をきく霞かな
ましろなる団扇に虫のかげはしる
息つめてをり虫かげの燈をめぐる
きりぎりす使丁は汗に顔ぬらし
山の百合宵庚申の鉦ひびけり
もりあをがへる楼門は朱のいろ濃くす
霧底は祇園祭の燈がともる
むささび遠し霧海は月の出づらしも
山百合や夜さり冷え来て白きなり
暑きかな蔦這ひのぼる山のギス
蝉涼し流れにそむき梳れる
緑蔭にむかへり鼻の汗しろき
蜂来ては去り赫耀と豆睡蓮
バッタとび廃墟は海へ緑地なす
炎天や葵咲かせて異人墓地
夏夕日石柱青き薔薇をまとふ
燈の下に聴く秋風は海の上
夕蝉に漁港はくらき潮湛ふ
白きみとばりぞ今ぞ引かれむ菊かがやき
菊黄なり白き御帳のやはら閉づ
渡り鳥空搏つ音に町しづか
押し移る鳥あきらかに頸長し
我が汽車の白煙凍てし野に凝るかな
吾子病めり風音家の隈に消ゆ
子は風邪に籠れりゆらぐねずみさし
塩からき目刺ぞ固く焼けあがり
夕づつの家並にそへば芽木匂ふ
ピアノ大きく坐り木の芽のかげさせり
丘越えぬ芽木のいぶきをまなかひに
海へ吹く雲雀の空のきらめけり
受験児とぼうたんの芽と雪狂ふ
寒くなりぬ日陰は椿咲きつらね
茨の芽の冴えつつ田水溢れけり
なだれ落つる著莪ことごとく緑なり
花を離れ若き蘆こそ躬に端し
梨棚のふつふつ霞呼べりけり
みなみかぜ帆柱は綱の張りうつくし
柿の芽とはずめる吾子を諸手にす
子の節に戻れば月に鳴く梟
木ささげは韻けり雲の立ちしらみ
日天上うましき枇杷ぞ手にもがむ
芒焼は蛙の闇にとほく燃え
蚊の声の空をめぐれり桃すする
山梔子は萎えぬすずろに汗匂ふ
着水の双翼天の川へ伸ぶ
明けはずむ鳥音ぞ尾根に雲眠れり
雲の八重垣炎えめぐらせて伊那盆地
アカシヤの波なし駒の雷おこる
まんじゆしやげ子はせせらぎに蟹もとめ
天凪げり我が汽車穂田をひびかする
白浪とほく漕げり秋天鳥をもとむ
黄金なす野づらの霞嶺呂へひき
おほみまへ鉾かがかがと秋を光る
秋日殊に万歳幡は朱かがよふ
天高き極み寿詞の充ちゆかむ
美し日輪天の高きへ頌歌のぼる
うつそみは秋陽炎にむせび伏す
我も酌まむ生日足日の秋ここに
常世なす秋日に煌と澄む舞楽
木犀や三日月路の上に落つ
銀杏愛し去ぬ日はちかき学舎の線
鉄塔は見えね冬菜の野に青む
白菜の玉ざしけぶる高師野や
雲影の洋おしうつる冬椿
紺青の海へかざして山帰来
年ゆくや巌にもたれて海をきく