和歌と俳句

高浜虚子

初笑深く蔵してほのかなる

京洛の衢に満つる初笑

有るものを摘み来よ乙女若菜の日

おのづから極楽へとる恵方道

去年今年追善のことかにかくに

歌留多とる声にとどめて老の杖

母姉と謡ひ伝へて手毬唄

掃初や白手拭に赤襷

大勢の子育て来し雑煮かな

両の手に玉と石とや老の春

慇懃にいと古風なる礼者かな

去年今年貫く棒の如きもの

見栄もなく誇も無くて老の春

元朝や座右の銘は母の言

賽の目の仮の運命よ絵双六

ほろびゆくものの姿や松の内

世に四五歩常に遅れて老の春

元日の門を出づれば七人の敵

下手謡稽古休まず老の春

目悪きことも合ッ点老の春

傲岸と人見るまゝに老の春

各々の年を取りたる年賀かな

屠蘇酌みて温故知新といふ事を

放擲し去り放擲し去り明の春

脱落し去り脱落し去り明の春

やゝ酔ひし妹が弾初いざ聴かん

争はぬことはよろしや弓始

書き留めて即ち忘れ老の春

数の子に老の歯茎を鳴らしけり