山裾のほかりとぬくしお茶の花
門さしに走り出づるや小夜時雨
物指で背なかかくことも日短か
来るとはや帰り支度や日短か
枯蓮の間より鴨のつづき立つ
息白く喧嘩してをる夫婦かな
白雲と冬木と終にかかはらず
雑炊に非力ながらも笑ひけり
爐話に煮こぼれてゐる蕪汁
焼芋がこぼれて田舎源氏かな
手より手に渡りて屏風運ばるる
玉の緒をつなぐたんぽをかへにけり
つづけさまに嚏して威厳くづれけり
嚏してまた襟巻を深々と
襟巻の狐の顔は別に在り
霜解の道返さんと顧し
炎上を見かへりながら逃ぐるかな
来る人に我は行く人慈善鍋
煤竹を持つて喧嘩を見に出たり
老一人いつまで煤の始末かな
堀端の柳のもとに畳替
悴める手を暖き手の包む
駆け込みし女房の髪に霰かな
見えてゐる御門遠しや御所の雪
凍蝶の己が魂追うて飛ぶ