雪晴や町中に山の影感ず
霜夜来し髪のしめりの愛しけれ
本買へば表紙が匂ふ雪の暮
襟巻ふかく夜の水鳥に立たれけり
寒夜にて川の奔流あらはなり
死顔に涙の見ゆる寒さかな
雪となりし野の寂漠に壁へだつ
隠沼の枯草色となりにけり
わが竹馬ひくきを母になげきけり
夕千鳥縹渺とわが息澄めり
大いなる枯野に堪へて画家ゐたり
落葉に教師と妻とかげはこぶ
冬の日や細菌の図を染めて落つ
外套の襟立てて何のうれひある
空たかく教師の家の庭枯れぬ
花舗の燈や聖誕祭の人通る
懺悔の涙ぽつんと冬木ともるとき
路地ふかく英霊還り冬の霧
足袋はやくうしろ姿を見られつつ
蓬髪のわれよりたかく蘆枯れたり
粉雪ふつてゐる畑の畝そろへり
思ひとほし柊の花に立ちどまる
寒さ堪へがたし妻子待つ灯に急ぐ
炭火吹く二重廻しの肩を撥ね