和歌と俳句

種田山頭火

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あれから一年生き伸びてゐる柿の芽

水へ水へながれいる音あたたかし

五月の風が刑務所の煉瓦塀に

ずんぶりひたるあふれるなかへ

わいて惜しげなくあふれてあつい湯

ふるつくふうふうわたしはなぐさまない

ふるつくふうふうお月さんがのぼつた

ふるつくふうふとないいてゐる

照れば鳴いて曇れば鳴いて山羊がいつぴき

てふてふもつれつつ草から空へ

くもりおもたく勝たり敗けたり

麦田ひろびろといななくは勝馬か

さくらちるあくびする親猿子猿

檻の猿なればいつも食べてゐる

猿を見てゐる誰ものどかな表情

椎の若葉もおもひでのボールをとばす

雲雀がさえずる地つきうたものびやかに

声を力をあはせては大地をつく

芽ぶくなかのみのむしぶらり

ふたりのなかの苺は咲いた

山の湯へ、初夏の風をまともにガソリンカーで

しげる葉の、おちる葉の、まぶしいそよかぜ

若葉へわたしへ風がやさしくねむりえおさそふ

なにやらさみしく雀どものおしやべり

勝つてまぶしく空へ呼吸してゐる

誰も来てはくれないほほけたんぽぽ

爆音はとほくかすんで飛行機

ふるさとの学校のからたちの花

ここに舫うておしめを干して初夏の風

晴れて帆柱の小さな鯉のぼり

暮れてなほ何かたたく音が、雨がちかい

ひとりたがやせばうたふなり

草青く寝ころぶによし

ここまでは会社のうちで金盞花

あゝさつきさつきの風はふくけれど

まがれば菜の花ひよいとバスに乗つて

寝ころべば旅人らしくてきんぽうげ

うぐひすうぐひす和尚さん掃いてござる

なんとよい日の苗代をつくること

山はしづかなてふてふがまひるのかげして

山かげふつとはためくは鯉幟

岩に口づける水のうまさは

若葉したゝる水音みつけた

若葉もりあがる空には鳩

五月の風が、刑務所は閉めてぴつたり

私一人となつた最終バスのゆれやう

でたらめをうたひつつあさぶをもらひつつ

若葉に月が、をんなはまことにうつくしい

いつ咲いた草の実の赤く

その蕎麦をかけば浅間のけむりが

ふるつくふうふうどうにもならない私です

ふるつくふうふうぢつとしてゐられない私です

ふるつくふうふうあてなくあるく

死ねないでゐるふるつくふうふう

こゝろ澄めば月草のほのかにひらく

てふてふとまる花がある

空へ若竹のなやみなし

酔ひざめの水のうまさがあふれる青葉

うしろすがたにネオンサインの更けてあかるく

たんぽぽのちりこむばかり誰もこない

蛙げろげろ苗は伸びる水はあふれて

青葉をくぐつて雀がこどもを連れてきた

青葉の、真昼の、サイレンのながう鳴る

けふは飲める風かをるガソリンカーで