和歌と俳句

山口誓子

晩刻

斧あてし枝の切り口冬に入る

もろもろの石冬に入る雅印また

虻よんで倦むこと知らず石蕗の花

とろろ汁吾に齢の高さなし

沖は昨夜寒かりしとぞ沖を見る

残る世のけふのさむさにめをさます

投函の後ぞ寒星夥し

寒星はただ天に寄る海の上

こがらしにすぐとさからふ夜の木々

こがらしや昴ほぐるることもなく

昴星楼閣のごとくしぐれけり

はらはらとしぐれて馭者の五角星

柵に沿ひゆけばしぐるる鉄軌かな

石山も地上もはねかへる

船の燈が最も哀れ雪の暮

オリオンの出て間もあらぬ枯野かな

寒き夜のオリオンに杖挿し入れむ

咳すれば暮るる景色の鮮明に

赤き実を垂りて南天提げ帰る

オリオンが枯木にひかる宵のほど

水撒きし舗道にうつれ除夜の星

南天を挿す除夜十時十一時