和歌と俳句

原 石鼎

58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68

草原へ投網なげ干し麦の秋

麦秋や星あるごとき松の上

大空のかまでに晴れて麦の秋

ほの曇して大空や麦の秋

明易や戸出の溝板踏めば鳴る

洗ひ髪ひろげ寝のかや明易き

天を蔽うて泰山木の明易き

短夜のふとかずかずの思ひぐさ

短夜のひとあり朴の花を活く

夫人来ておどけゆきしも梅雨入かな

褐色の蝶とび出す梅雨入かな

地球儀に照る青空や梅雨入窓

梅雨入いたくはれて群鴿空翔り

日をよけて柏の花の下かげに

麦秋の門の内外の青梅かな

にが梅と何やら小さき実と落ちて

なぶる子としりて啼きけり鴉の子

なぶる子と見て巣をかばふ鴉かな

桑の実は食まぬものかや鴉の子

風吹きて逆立したり鴉の子

親に随いて飛ぶ子鴉よ山若葉

親鴉来し子鴉の翼かな

子鴉は翼紫紺にひからせぬ

桑に蘆に人沈みゆく行々子

牛に乗つて人蘆辺より行々子