朝風のさざなみ寒きさくらかな
水晴れて若木のさくら咲きそろふ
踏みしむる白きくびすや春の泥
襟あしのごとし薄闇の木蓮は
勤労の服はたるめり夕ざくら
墓の影墓にもたれて暮れ遅き
春の星灯さぬ部屋の窓あきぬ
梅の朝ちちくさき子にからまるる
鉢梅の二つの花の花ざかり
焚火の穂ひらりひらりと春寒し
朝光に睫毛のながき余寒かな
春浅し鐵欄石に影を据ゑ
つまさきに波のしのべる花の闇
花吹雪稀に行く人の眼にすさぶ
落花の陽射しあらはれて斜めなり
うすいろのつつじ三輪祇王寺に
風立ちて身を揉む竹や花ぐもり
竹曇り花もくもりぬしづかなる
俯いて来て落椿踏まざりき
落椿ありしかば樹をふりあふぐ
花ぐもり鳴瀬に高き橋を踏む
樫の葉や花より移す眼に青き
大原やしづかに曇る花とわれ
花蔭のしづかに香のきこえけり
斑の椿うるはしと見つつ香きこゆ