蜂の巣も投じて焚火寒明くる
一枚の残雪岩に起ちあがり
春雪の降りちかづくを地のあふつ
庭雪解無言を守れる療養に
風いつもかの樹に起り森雪解
万両の餘寒の古實古庭に
芭蕉菰をおのれ脱がんと梅の中
病よき光陰ゆるび窓に梅
わがマスクわが見え春の風邪の憂し
戸のすでに油彩のにほひ東風に訪ふ
雲挙げてくしけづらるるさまに東風
初音すと机上筆おくあはただし
風の野の葎ごもりの初音ぞも
鶯や湖心の舟に雨のこり
焼きそめし山ふところの火の實珠
目刺買ふ安房の岬山焼けさかり
蝌蚪を見る病後の杖を抱きかがみ
草の芽のしるきを返り見つつ掃く
芍薬の今かも出でし芽に跼む
萩の芽のこころもとなく地にまろび
藤芽ぐむ岩間の幹の岩のごと
大沼小沼の小沼は木の芽の雨に見ず
燈台の統べ立つものに海苔掻も
海女となる四月を遠み海苔を掻く
初蝶の陥るごとくにとびつづけ