晩涼の縁にしみじみ父憶ふ
子猿呼ぶ声にうとうと昼寝ざめ
ぞろぞろと早朝の客避暑の宿
句会して居るが何より麦茶冷え
しみ込んでゆく日緋牡丹白牡丹
帯とけば涼しくなりぬ水音も
植込に降り込められて梅雨の蝶
金魚屋の来し町角の昔めき
この涼を色にたとへてみれば紺
薄暑来ぬ人美しく装へば
集りし一日信者寺薄暑
戒律の中に涼しく僧ゆきき
峠路の木下闇恋ひ旅に出し
萩若葉雨沛然と来りけり
涼しげといはれ心外梅雨は憂し
鎌倉は今夕立と電話口
老母涼し坐りて眠りをらるるよ
百合の香をふくみし夜風寺に泊つ
音立てて大蟲小蟲誘蛾燈
高濱の家はからつぽ夜の秋
二時頃は山も汗する蝉ぢぢと
避暑たのし足りなきものは隣より