及川 貞
片手袋失ひしより春めくや
白魚や厨あづかることは幸
ある時はものおもふまじと麦を踏む
老いてこそなほなつかしや雛飾る
子を失ひし母われけふを実朝忌
初蛙ひるよりは夜があたゝかき
寝られねば寝ることを捨てぬ遠蛙
家づとにせむも惜しくて初わらび
冗費とも当然とも初わらび買ふ
はりつけにあらず寝釈迦は寝給へり
ほぐれては花かとまぶし檪の芽
代田成り懸境なる灯をうつす
花御堂花重なりて匂ひけり
つり釜や茶の香たつとき春の雷
水張つて奥もよそほひ春田なり
啓蟄や如露でぬらす庭の石
濃き薔薇が大輪となる遅日かな
ひとひらのおくるゝしじま花吹雪
はだれ野の安曇に聞けり卒業歌