夕焼や梅も櫻も固けれど
暖かや枯木の影が手をひろぐ
みちのくの子の寒がりよ春時雨
春雨の旅のポストの色褪せて
はこべらや川岸の名の澱町
振りかへり消ゆる土筆もありにけり
大き荷を遅日のバスに乗せんとし
糸櫻夜はみちのくの露深く
ゆで玉子むけばかがやく花曇
膝の子に飯やしなひや花の下
花人に北の海蟹ゆでひさぐ
木の芽谷なほ雪嶺のつきまとふ
少年のかくれ莨よ春の雨
春泥や赤い足袋の子馳せおくれ
春泥に振りかへる子が兄らしや
初蝶や朝より庭にありし子に
病床や櫻手折りし子がよぎる
夕暮の久しきままに糸櫻
沈丁にはげしく降りて降り足りぬ
春泥やわが影ぞすぐうち踏まれ
石の上に子等寝て見せぬ暖かし
雛市とまづ伊勢丹が屋に描く
春水のただ一線の汀石
芝を焼く美しき火の燐寸かな