和歌と俳句

中村汀女

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日盛を盆提灯の売れてゆく

棕梠の花やうやく雨を呼びにけり

声あげて夕風にさからひぬ

空蝉も拡大鏡も子に大事

奥の間の暗きに使ふ団扇かな

現身の何も残らず昼寝覚め

ひそやかに来ては濯げるの水

噴水は心のほかにくづれつつ

夏川に濯ぎて遠き子と思ふ

簾なす雨くぐり来て扇店

音もなくぎとりめぐれる火蛾もあり

曝す書の仮の栞と思へども

遠雷の今たしかなる楡大樹

髭振りて蟻も涼しき風にあふ

夕焼の今退くや竃の火

滴りの思ひこらせしとき光る

はそぞろに青み母の老い

山梔子の花の晴間へ乳母車

梅雨の晴マッチは匂ふ火を発し

白玉や人づきあひをまた歎き

すぐに食うべ終りて端然と

ただ白き足袋をたのみや業平忌

香水の香あきらかに身をはなる

立葵夜を紅白に町に坂

山の威のふつとにはかや夏薊