和歌と俳句

中村汀女

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秋海棠母を大事の家のさま

わかつものおほかた愁ひ秋灯

櫨紅葉北上光り去るところ

一雨の暗さ強さよちちろ蟲

提灯を吊す古釘秋祭

雨いつか菜畑に晴れ十三夜

十三夜花茎長きゼラニューム

流灯会陸奥の夜潮の早さかな

流燈の従ふの流れとぞ

秋の暮消ぬがに小さき紅雀

手直しのはじめの秋の白襖

さびしさの花野踏ましむ火山礫

ぞと早や吹かるるを子にも見せ

宵闇の真つ向にして雁の声

山粧ふ幾日とてなき泊りかな

思ひさへ鳴く鈴蟲にはばかられ

老をかばふ言葉ばかりに法師蝉

曼珠沙華漁夫過ぎてより昏れ果てぬ

膝掛や無月の縁の川の香に

団栗が洗ふ障子の水を打つ

子守とはときにうつろに秋暮るる

全山の紅葉八甲田巌と持す

たづぬとて紅葉の山のただかたへ