和歌と俳句

古今和歌集

恋歌四

よみ人しらず
空蝉の世の人言のしげければ 忘れぬもののかれぬべらなり

よみ人しらず
あかでこそおもはむなかは離れなめ そをだにのちの忘れがたみに

よみ人しらず
忘れなむと思ふ心のつくからに ありしよりけにまづぞこひしき

よみ人しらず
忘れなむ 我をうらむな 郭公人の秋にはあはむともせず

よみ人しらず
絶えず行く飛鳥の川のよどみなば 心あるとや人のおもはむ

よみ人しらず
淀川のよどむと人は見るらめど 流れてふかき心あるものを

素性法師
そこひなきふちやは騒ぐ 山河のあさきせにこそあだ浪はたて

よみ人しらず
紅のはつ花ぞめの 色ふかく思ひし心 われわすれめや

河原左大臣源融
みちのくのしのぶもぢずり たれゆゑに乱れむと思ふ我ならなくに

よみ人しらず
思ふよりいかにせよとか 秋風になびく浅茅の色ことになる

よみ人しらず
ちぢの色にうつろふらめど知らなくに 心し秋のもみぢならねば

小野小町
あまのすむ里のしるべにあらなくに うらみむとのみ 人のいふらむ

しもつけのをむね
くもり日の影としなれる我なれば めにこそ見えね 身をば離れず

つらゆき
色もなき心を人にそめしより うつろはむとはおもほえなくに

よみ人しらず
めづらしき人を見むとや しかもせぬわが下紐のとけわたるらむ

よみ人しらず
かげろふのそれかあらぬか 春雨のふるひとなれば袖ぞぬれぬる

よみ人しらず
堀江こぐたななし小舟 こぎかへり おなじ人にや恋ひわたりなむ

伊勢
わたつみとあれにし床を 今更に拂はば袖やあわとうきなむ

つらゆき
いにしへになほ立ちかへる心かな 恋しきことにものわすれせで

大伴くろぬし
思ひいでて恋しき時は 初雁のなきてわたると 人しるらめや