法印倫円
のぼるべき道にぞまどふ位山これよりおくのしるべなければ
中納言長方
もろ人の花さく春をよそに見てなほしぐるるは椎柴の袖
藤原顕方
憂き瀬にもうれしき瀬にも先に立つ涙はおなじ涙なりけり
前左兵衛督惟方
この瀬にも沈むときけば涙川ながれしよりもなほまさりけり
空人法師
かくばかり憂き身なれども捨てはてむと思ふになればかなしかりけり
平康頼
思ひきや志賀の浦浪たちかへりまたあふみともならむものとは
登蓮法師
かくばかり憂き世の中をしのびても待つべきことの末にあるかは
覚禅法師
思ひかねあくがれいでて行く道はあゆく草葉に露ぞこほるる
権僧正永縁
夢とのみこの世のことの見ゆるかな覚むべきほどはいつとなけれど
良暹法師
この世をば雲の林に門出して煙とならんゆふべをぞまつ
よみ人しらず
憂きことのまどろむほどは忘られて覚むれば夢の心地こそすれ
紫式部
いづくとも身をやるかたの知られねば憂しと見つつもながらふるかな
皇太后宮大夫俊成
憂き夢はなごりまでこそかなしけれこの世ののちもなほやなげかん
藤原季通朝臣
うつつをもうつつといかが定むべき夢にも夢を見ずはこそあらめ
藤原季通朝臣
厭ひてもなほしのばるる我が身かなふたたび来べきこの世ならねば
上西門院兵衛
これや夢いつれかうつつはかなさを思ひ分かでも過ぎぬべきかな
花園左大臣家小大進
あすしらぬみむろの岸のねなし草なにあだし世に生ひはじめけん
前大納言成通
惜しからぬ命ぞさらに惜しまるる君がみやこに帰りくるまで
返し 前大僧正覚忠
憂き世をば捨てて入りにし山なれど君がとふにやいでんとすらん
仁和寺法親王守覚
いはそそぐ水よりほかに音せねば心ひとつをすましてぞ聞く
権大納言実国
たれもみな露の身ぞかしと思ふにも心とまりし草のいほかな