あとたえてしづけき宿に咲く花の散りはつるまで見る人ぞなき
年ふかく老いぬる人の悲しきは咲ける花さへ暗きなりけり
新勅撰集・春
としつきにまさるときなしと思へばや春しもつねにすくなかるらむ
花を見て帰らむことを忘るるは色こき風によりてなりけり
あかずのみ過ぎ行く春をいかでかは心にいれておしまさるべき
かねてよりわがをしみこし春はただあけむあしたぞ限りなりける
春をのみここもかしこも惜しめども皆おなじ日につきぬるが憂さ
はるはるにあひて老ぬる身なればや酔ひに涙のあかれざるらむ
あはれとは我が身のみこそ思ひけれはかなき春をすぐしきぬれば
なげきつつ過ぎ行く春を惜しめどもあまつ空からふりすてていぬ
ひととせにまたふたたびもこしものをたたひかなこそ春はのこれる
このめもえ春さかえこし枝なれば夏のかげとぞなりまさりける
なく蝉の声たかくのみきこゆるは野の吹く風の秋ぞしらるる
わびてすむ宿に光のくれゆけば吹く風のみぞとざしなりける
鶯は過ぎにし春を惜しみつつなく声おほきころにさりける
うつせみの身としなりぬるわれなれば秋をまたずぞなきぬべらなる
散りまがふ花は木の葉にかくされてまれににほへる色ぞともしき
鶯はときならねばや鳴く声の今はまれらになりぬべらなり
限りとて春のたちぬるよきよりぞ鳴く鳥のねもいたくきこゆる
秋ちかく蓮ひらくる水の上は紅ふかく色ぞ見えけれ