和歌と俳句

源兼昌

つがねつつ たてならべたる あし夜座は 三輪の社の しるしなるらむ

生駒山 たむけはこれや 木のもとに いはくらうちて 榊たてたり

長月の 月の光の 冴ゆるかな 桂が枝に 霜や置くらむ

葉をしげみ 道見えずとて やすらへば そよそよといふ 小笹原かな

ふるかはの とだえを渡る 旅人の 裳裾に青く つける浮草

かぞいろの ともに祈れば 二人さす 紙燭の影に 千代ぞうつれる

わが君の 齢たけたる うれしさは 大宮人の 身にあまるらむ

おしてるや うのはふきける 昔もや こよひは千代と 祝ひそめけむ

のりてゆく 鶴の羽風に 雲はれて 月もさやけく 澄む山辺かな

海原や 博多の沖に かかりたる もろこし船に 時つくるなり

見るままに わが姿や かきてまし 千々の黄金を 惜しまざりせば

をみなへし めでたき花の すがたかな そとほり姫も かくやありけむ

翁さび 立ち居もやすく せられねば つらつゑつきて けふも暮らしつ

濡れ衣 今ぞ泊木に 掛けて干す かづきしてけり 与謝のあま人

鳰てるや 矢橋のわたり する舟を いくたび見つつ 瀬田の橋守

となりより 葦火のけぶり もれ来つつ 焚かぬやどにも 煤たりぬべし

波のおとに たぐへてぞきく 住の江の みぎはにて吹く 高麗笛のこゑ

小夜更けて ものの音たかく なりぬらし しらぶる琴は 琴柱あぐなり

枯れ残る 軒の菖蒲を たよりにて 繰り返し引く 蜘蛛の糸筋

思ふこと 大江の山に 世の中を いかにせましと みこゑ鳴くなる

金葉集・冬小倉百人一首
淡路島 かよふ千鳥の なくこゑに 幾夜ねざめぬ 須磨の関守

詞花集・夏
榊とる 夏の山路や とほからむ ゆふかけてのみ まつる神かな

詞花集・秋
夕霧に こずゑもみえず はつせ山 いりあひの鐘の 音ばかりして

千載集・秋
我が門の おくての引板に おどろきて 室の刈田に ぞ立つなる

新勅撰集・冬
ゆふづくひ いるさのやまの たかねより はるかにめぐる はつしぐれかな