夕べとて 寂しからずは なけれども たへぬあはれは 明け方の空
いとふべき ちぎりありとも いかがせむ 夜ふかき鳥の ほのかなるこゑ
いまはとて 誰が道しばに わくる露 あはぬ寝覚めの よその袖まで
さてもなほ 夢をはかなみ まどろまむ しばしなあけそ さむしろの床
あづまやの まやのあたりの やすらひに まづたつ人の 音は過ぐなり
いろかへぬ いろこそかはれ 夕づく日 さすや丘辺の 松のむらたち
ながむれば 暮れだにはてぬ 山の端に いつかたぶける 三日月の影
山の端に 月まつころの 柴の戸を ささすやなにを みねの松風
雲くるる やまかたつきて たれかまた みやこの空を ながめそふらむ
おぼえずよ 野寺やちかき いほりさす あたりもしらぬ いりあひの鐘
ながき夜の 小夜の中山 明けやらで 月にあさたつ 秋の旅人
しぐれつる いそべの雲を わけ来らし 野原にいづる 袖の月影
ふるさとの たよりとならば ことづてむ 袂にむかふ 宇都の山風
暮れゆけば やどかるかたも しらくもの かかれるみねに たちぞわづらふ
ゆきかよふ かけの細道 すゑたどり こゆとしらする 旅人のこゑ
明石潟 月ゆゑならぬ ながめまで 晴れて寂しき 波の上かな
みやこおもふ 袖をばゆるせ 清見潟 さこそならひの 波の関守
あはれなり いづれの浦の あまならむ よるかたもなき 沖の釣舟
なみのおと 松のあらしの 浦つたひ 夢路よりこそ 遠ざかりぬれ
まだしらぬ うきねの床の かぢ枕 なれぬ袂に なるる波かな