春をのみ なほうつせみの から衣 むなしくうつる 袖のいろかな
夏かけて うつろふ池の 藤浪に やまほととぎす まつ風ぞ吹く
このころは 卯の花月夜 よよしとて やまほととぎす 待たずしもあらず
待ちえても たれかはきかむ ほととぎす ただひとこゑを 小夜更けて鳴く
ほととぎす なくひとこゑも 夏の夜の みはてぬ夢の あけぼののそら
ほととぎす 菖蒲が軒の むらさめに 濡れてもかをる ゆふぐれのこゑ
さみだれは ふもとに雲の をりはへて 山もとどろに なくほととぎす
ひさかたの 雲のなみこす 滝のうへや みふねの山の さみだれのころ
ふるさとは むかししのぶの 軒の露 袖にかけても かをるたちばな
早苗とる やまだのはらの ならかしは 稲葉も待たぬ 風そよぐなり
鵜川たつ かたやま舟の さしもなと 月にはいでぬ ならひなるらむ
そま川や 月もなみだに うき枕 いかだの床は 夏もしられず
むすぶ手に 秋をおもひそ 泉川 なみふく風を 袖にかせやま
夏ふかき 笹わくるあさの 袖ひぢて 野中の清水 むすび暮しつ
すずしさを 袖にならしの 丘辺なる 秋といはせの もりのした風
夏の日も たけふのこふの ゆふすずみ 袖には秋の ころあひの風
かはなみに まがふ螢の 乱れても すむや沢辺の 芦のうら風
夏なれば をちかたのへに 刈る草の かきねにつづく 山の辺の里
をはつせの やまたちはなれ すがはらや ふしみのさとの 夕立の雲
誰がみそぎ ゆふかへるなみの たつたやま 麻の葉流る この川の瀬に