和歌と俳句

齋藤茂吉

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山と川

黄の雲の 屯したりと 見るまでに 太樹の桂 もみぢせりけり

やうやくに 色づかむとする 秋山の 谷あひ占めて 白き茅原

つゆじもは あふるるばかり 朝草に たまりてゐたり 寒くもあるか

われひとり きのふのごとく 今日もゐて つひに寂しき くれぐれの山

秋ふけし 最上の川は もみぢせる デルタをはさみ 二流れたる

去年の秋 金瓶村に 見しごとく うつくしきかなや 柿の落葉は

しぐれ

たひらなる 命生きむと こひねがひ 朝まだきより 山こゆるなり

山の木々 さわだつとおもひしばかりに しぐれの雨は 峡こえて来つ

小國川 迅きながれに ゐる魚を われも食ひけり 山澤びとと

最上川の 大き支流の 一つなる 小國川の浪に おもてをあらふ

新庄に かへり来りて むらさきの 木通の實をし 持てばかなしも

晩秋

最上川の 支流は山に うちひびき ゆふぐれむとする 時にわが居つ

山岸の 畑より大根を 背負ひくる 女の童らは 笑みかたまけて

新しき 憲法発布の 当日と なりたりけりな 吾はおもはな

浅山に 入りつつ心 しづまりぬ 楢のもみぢも くれなゐにして

こもごもに 心のみだれ やまなくに 葉廣がしはの もみぢするころ

のきに干す 黍に光の さすみれば まもなく山越え 白雪の来む

ひとたびは きざす心の きざしけり 稲刈り終へし 田面を見れば

かくのごとく 楽しきこゑを するものか 松山のうへに 鳶啼く聞けば

しづかなる 亡ぶるものの 心にて ひぐらし一つ みじかく鳴けり

日ごと夜毎 いそぐがごとく 赤くなりし もみぢの上に 降る山の雨

かすかにも 来鳴ける鳥の みそさざいの 塒おもはむ 雪の夜ごろは

かしこには 確かにありと 思へらく いまだ沈まぬ 白き太陽