和歌と俳句

藤原定家

二見浦百首

世の中よたかきいやしきなぞへなくなどありそめしおもひなるらむ

思ふつは見ゆらむものをおのづから知れかし宵の夢ばかりだに

この世よりこがるる恋にかつ燃えて猶うとまれぬ心なりけり

恋ひ恋ひて思ひし程もえぞなれぬ唯ときのまの逢ふ名ばかりは

天の原そら行く月の光かは手にとるからに雲のよそなる

君といへば落つる涙にくらされて恋しつらしと分く方もなし

恋はよし心づからも歎くなりこは誰がそへし面影ぞさは

新古今集
あぢきなくつらき嵐のこゑも憂しなど夕暮れに待ち習ひけむ

千載集
しかばかり契りし中もかはりけるこの世に人を頼みけるかな

常陸帯のかこともいとどまどはれて恋こそ道の果てなかりけれ

見しはみな昔にかはる夢のうちに驚かれぬは心なりけり

千載集
おのづからあればある世にながれへて惜しむと人に見えぬべきかな

見るも憂し思ふも苦し數ならでなどいにしへをしのびそめけむ

ありはてぬ命をさぞと知りながらはかなくも世をあけくらすかな

月の入り秋の暮るるを惜しみても西にはわきて慕ふこころぞ

幻よ夢ともいはじ世の中はかくて聞き見るはかなさぞこれ

おしなべて世はかりそめの草まくら結ぶ袂に消ゆるしらつゆ

世の中はただかげやどすます鏡見るをありとは頼むべきかは

あすはこむ待ててふ道も人の世の長き別れにならぬものかは

人知れぬ人の心のかねごとも変はれば変はるこの世なりけり