子の日する野邊の小松のひきひきにうらやましくも春にあふかな
たづねきて秋みし山のおもかげにあはれたちそふ春霞かな
春やとき谷のうぐひすうちはぶきけふ白雪の古巣いづなり
もろともに出でこし人の形見かな色もかはらぬ野邊の若菜は
心にもあらぬ別れの名残りかは消えても惜しき春の雪かな
春の夜は月の桂もにほふらむ光に梅の色はまがひぬ
植ゑおきし昔を人に見せがほにはるかになびく青柳の糸
わらびをるおなじ山路の行きずりに春のみやすむ岩のもとかな
けふこずは庭にや春の残らましこずゑうつろふ花のしたかぜ
春も又かれし人目に待ちわびぬ草葉はしげる雨につけても
ひきかへつ蘆の葉めぐむ難波潟うらわの空も駒のけしきも
これに見つ越路の秋もいかならむ吉野の春をかへる雁がね
曇る夜の月のかげのみほのかにて行く方しらぬ呼子鳥かな
思ふこそかへすがへすもさびしけれあらたの面のけふの春雨
菫つむ花染衣つゆを重みかへりてうつるつきくさのいろ
ふりにけり誰かみぎはの杜若それのみ春の色深くして
ゆく春をうらむらさきの藤の花かへるたよりにそめや捨つらむ
すぎてゆくま袖ににほふ山吹に心をさへも分くる道かな
春のけふ過ぎ行く山にしをりして心づからのかたみとも見む