新玉のとしを一年かさぬとやかすみもくもに立ちはそふらむ
冴ゆる夜はまだ冬ながら月影のくもりの果てぬけしきなるかな
春日山てらすひかげに雪きえて若菜ぞはるをまづは知りける
過ぎがてに摘めどたまらぬからなづなうら若く鳴く鶯のこゑ
み山木のかすみは雪の上とぢてなほ雲うづむ草のいほかな
蟲の音は寝ざめの夢におぼえつつ秋の春にもなりにけるかな
めづらしき大宮人のあづさゆみ春のまとゐのあとをたづねよ
軒端までまだ面影は見えながら覚め行く夢は梅のにほひに
春の夜の半ばの月のつきかげのおぼろげならず身にもしむかな
ながらへむ命をいつと思ふとも後を待つべきはなのかげかは
たれ住みて心のかぎり盡すらむ花にかすめる遠の山ぎは
まどごしに花咲く風の過ぎぬれば集めぬ雲ぞ袖ににほへる
闇ならば折りて帰らむ時のまに暮れぬ山路の花のひとえだ
波の上も春はかすみのうちなれば櫻がひをぞまづはよせける
きの国や吹上のはまの浜かぜも春はのどけくなりぬべらなり
かへる雁なれつる空の雲かすみ立ち別れなばこひしからじや
昨日までかをりし花に雨すぎて今朝はあらしの玉ゆらのいろ
つつじ咲く苔の通ひ路春ふかみ日かげを分けて出づる山びと
花散りてのちさへものを思ふかな今いく日かは春のあけぼの
立ちかへる春の別れのけふごとに恨みてのみも年をふるかな