たまきはる命をだにも知らぬ世にいふにもたへぬ身をば嘆かず
浦風や身をも心にまかせつつゆくかたやすきあまの釣舟
起き臥しも人のとがめぬ床の上は長きも知らず秋の夜の霜
世の中も厭ふ心も軒に生ふる草の葉深く霜や置くらむ
下むせぶ色やみどりの松風のひとひやすまぬ身をしぼりつつ
武蔵野の草葉のつゆもおきとめず過ぐる月日ぞ長きわかれぢ
かへらぬもとまりがたきも世の中は水行く川に落つるもみぢ葉
見しはみな夢のただちにまがひつつ昔は遠く人はかへらず
老らくのあはれわが世も白露の消え行く玉と涙落ちつつ
鳥部山むなしきあとはかずそひて見し故郷のひとぞまれなる
咲く花もねをなく蟲もおしなべて空蝉の世に見ゆるまぼろし
世の中は木草もたへぬ秋風に靡きかねたる宵のともしび
淵となるしがらみもなきはやせ川浮かぶみなわぞ消えて悲しき
みどり子をありふるままの友とみて馴れしは疎き夕暮の空
つかふりてその世も知らぬ春の草さらぬ別れとたれしたひけむ
大空のむなしき法の心にて月にたなびく雲も残らず
つらき身のもとのむくいはいかがせむこの世の後の夢は結ばじ
さとり行く心のみずに洗はれて積もりし世々の塵も残らじ
舟の中に憂き世の岸をはなれてや知らぬ薬の名をばたづねむ
大空にただよふほどもありがほにうへなる塵を何かいとはむ