み吉野はまれのとだえの雲間とて昨日の雪のきゆる日もなし
いへばえにおさふる袖も朽ちはてぬ玉のをごとの秋のしらべに
待ちわぶるあふせうらやむ天の川そのほど知らぬ年の契りに
色わかぬ闇のうつつのひとことに袖のちしほはいとど染めつつ
かけてだにまたいかさまにいはみがたなほ浪高き秋の潮風
身を捨てて人の命を惜しむともありしちかひのおぼえやはせむ
かへりみるその面影は立ちそひて行けば隔たる嶺の白雲
山かげやあらしの庵の笹まくら臥し待ち過ぎて月もとひこず
漕ぎよせてとまるとまりの松風を知るひとがほに急ぐくれかな
しのばれむものとはなしに小倉山軒端の松ぞ馴れて久しき
竹の戸の谷のしばはし改めてなほ世をわたる道慕ふらし
知られじな岩のしたかげ宿ふかき苔の乱れてものおもふとも
春日山みねのこのまの月なればひだりみぎにぞ神まもるらむ
せくひともかへらぬ浪の花の蔭うきをかたみの春ぞかなしき
なべて世のなさけゆるさぬ春の雲頼みし道は隔てはててき