今のまの我が身にかぎる鳥の音を誰うきものと帰り初めけむ
おきわびぬ長き夜あかぬ黒髪のそでにこぼるる露みだれつつ
関守の心もしらぬわかれにはかならずたのむこのくれもなし
朝露をおくをまつまのほどをだに見果てぬ夢を何にたとへむ
はぢめよりあふは別れと聞きながらあかつきしらでひとを恋ひける
命とてあひ見むこともたのまれずうつる心のはなのさかりは
はるかなる人の心のもろこしは騒ぐみなとにことづてもなし
はかなしな夢にゆめみしかげろふのそれもたえぬる中のちぎりは
海とのみあれぬる床のあはれ我が身さへうきてと誰につたへむ
色かはるみのの中山あきこえてまたとほざかるあふさかの関
己のみあまのさかてをうつたへに降りしく木の葉跡だにもなし
あけぬなりおのが心のあたら夜はむかしむすばぬ契りしられて
思ふとも恋ふともなにのかひがねよ横ほりふせる山を隔てて
なれし夜の月ばかりこそ身にはそへ濡れても濡るる袖にやどりて
道の邊の人ごとしげきおもひ草霜のふり葉と朽ちぞ果てぬる
都いでて朝たつ山のたむけよりつゆおきとめぬ秋かぜぞ吹く
夕日影さすやをかべの玉笹を一夜のやどとたのみてぞかる
ふるさとにとまるおもかげ立ちそひて旅にはこひの道ぞはなれぬ
なぐさまずいづれの山も住み馴れし宿をばすての月の旅寝は
臥しなれぬ濱松がねのいはまくら袖うちぬらしかへるうき波