明けやらぬ鳥の音ふかく置く霜に寝覚めくるしきよよのふるごと
植ゑおきしわがものからの庭の松ゆふべは風のこゑぞ悔しき
色かへぬ青葉の竹のおきふしに身を知る雨のあはれ世の中
はやせ川岩うつなみの白妙に苔の袂も色ぞつれなき
比良の山みねの木がらし拂ふ夜は心きよくも月を待つかな
雲深きあたりの山につつまれて音のみ落つる滝の白糸
秋のみづ清瀧河のゆふ日かげこのはもうかずくもるばかりは
おなじ野のかすみも霧も分けなれぬ初子の小松まつ蟲の聲
ゆく人の形見もあだにおく霜を吹きな拂ひそ関の秋風
暮れかかる四方の草木の山風におのれしをるる柴の袖がき
故郷をしのぶる人やわたしけむさてもとはれぬ谷のかけはし
しるらめやたゆたふ舟のなみまより見ゆる小島のもとの心を
夕月夜やどかりそめしかげながらいくありあけの友となるらむ
旅衣ぬくや玉の緒よるの雨は袖にみだれて夢もむすばず
明けぬとてとまりこぎ出づる友舟の星のまぎれに雲ぞ別るる
まどろめばいやはかななる夢の中に身をいくよとて覚ぬ嘆ぞ
ひきすつる例もかなしかきつめしおどろの道のもとの朽葉を
九重のとのへのあふちわするなよ六十の友はくちてやみぬと
天の戸のあくる日毎に忍ぶとて知らぬむかしは立ちも帰らず
その日より神もさこそは願ふらめ君あきらかに民やすくとは