和歌と俳句

西行

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濁りたる 心の水の 少きに 何かは月の 影やどるべき

いかでわれ 清く曇らぬ 身になりて 心の月の 影をみがかん

遁れなく つひに行くべき 道をさは 知らではいかが 過ぐべかりける

愚かなる 心にのみや 任すべき 師となることも あるなるものを

野に立てる 枝なき木にも 劣りかり 後の世知らぬ 人の心は

新古今集・雑歌
身の憂さを 思ひ知らでや やみなまし 背く習ひの なき世なりせば

いづくにか 身を隠さまし いとひても 憂き世に深き 山なかりせば

身の憂さのかくれがにせん山里は心ありてぞ住むべかりける

あはれ知る涙の露ぞこぼれける草の庵を結ぶ契りは

うかれ出づる心は身にもかなはねば いかなりとてもいかにかはせん

住むことは所がらぞといひながら高野はもののあはれなるかな

浅く出でし心の水や湛ふらんすみゆくままに深くなるかな

あらしのみ時々窓におとづれて明けぬる空の名残をぞ思ふ

今宵こそあはれみ厚き心地してあらしの音をよそに聞きつれ

露洩らぬ岩屋も袖は濡れけりと聞かずはいかがあやしからまし

わけ来つる小笹の露にそぼちつつ乾しぞわづらふ墨染の袖

袈裟の色や若紫に染めてける苔の袂を思ひ返して

吹き過ぐる風しやみなば頼もしき秋の野もせの露の白玉

琴の音に涙を添へて流すかな絶えなましかばと思ふあはれに