なにはがた 葦の枯葉に 風さえて 汀のたづも 霜に鳴くなり
ことわりや 眞野の入江に 鳴く千鳥 うらかぜ寒き 有明の空
新古今集
かつこほり かつは砕くる 山河の 岩間にむせぶ あかつきのこゑ
払ひあへぬうはげの霜にいかにして鴛のあをばの変はらざるらむ
月きよみたながみ川の網代木は氷うちよする名にこそありけれ
あなさやけあなおもしろと見ゆるかな採る榊葉に霜のおくほど
はかなしや交野の原も立つきぎす絶えぬ狩場とかつは見ゆらむ
炭竃も氷室もおなじ小野山は火と水とこそ隔てなりけれ
埋火にすこし春ある心地して夜深き冬をなぐさむるかな
今日ごとに積もる年なみ重なりて隔たりゆけば昔なりけり
はじめより思ふ心はきはもなし法の道をもさこそいふなれ
みちのくの信夫の里の近からばたち隠れても住まましものを
身をなげて生田の川に沈みても逢ふ瀬なくては何にかはせむ
あふさかの関守る神に手向けせし幣のしるしはこよひなりけり
逢はで来し道の露にもまさりけりきぬぎぬになるしののめの袖
名をたてしわがつらきともいふべきにただ恋しきぞわりなかりける
夢にこそ都のことも見るべきに袖に浪越す千賀の塩釜
恋しとも憂きをつらしと恨むるも思ふ心の深きなりけり
なかなかにうるまの島の人ならばうきに思ひを変へましものを
何せむに憂しとも人を恨みけむさてもつらさは勝るものゆゑ