和歌と俳句

俊惠法師

せきのとは 鳥のそらねに 明けつれど 踏ままくをしき 雪ぞ降りぬる

消ぬが上に 降らで重なる 白雪は 越の高嶺に 照る月の影

君がため 玉串の葉を とりかざし 星さゆるまで うたひあかさむ

天くだる 神のしるしの 榊葉に 雪のしらゆふ 掛け添へてけり

たづねこむ 人こそあらめ 我さへに たちでづべくも 見えぬ雪かな

風吹けば 佐野の舟橋 波こすと 見ゆるは蘆の 穂末なりけり

八橋の とだえを見れば 霜枯れの 蘆の葉のみぞ くも手なりける

あさたちて 旅の鏡と 見よとてや やまゐの水の 薄氷りせる

かつ消ゆる 雪ともつみを 思はじや みよの仏を 拜むしるしに

ふる雪に なぐさむべきを いとどしく 花と見てしも 春ぞ恋ひしき

あるじ無き ここちこそすれ 花ゆゑに 春待つ程の 冬の山里

やまかげの たるひの下に すむやどは うららに照らむ 春をしぞ思ふ

うぐひすの 来ゐむ春まで やつさじと 梅には雪の 蔽ひしてけり

しばしかと わが身の憂さを 思ひしに こそぞことしも 嘆きくらしつ

なにとこは 急ぐ綱手ぞ 波の上も みやこもおなじ 年ぞ越すべき

日に添へて 身に添ふ老いを 暮れていぬる 年のひとよに おぼせつるかな

なにしかは おくりむかふと 急ぐらむ また来む年も おなじ憂き世を

暮ると明くと 世を憂しとのみ 嘆き来て 果ては今年も 今日になりける

今年にて また来む年も 見えぬれど なほこりすまに 春ぞ待たるる

新古今集・冬
歎きつつ 今年も暮れぬ 露の命 いけるばかりを 思出にして

かくばかり 厭ふ命を ひとなみに 明日は千歳とや いはむとすらむ

花を待ち 月を遅しと 急がれし 日数は年の 果てぞくやしき

暮れはつる 年のしるしの なかりせば 残り少なく なるも知られじ

いつとても 過ぐる月日は 多けれど 今宵は年を 添ふるかなしき

ひととせの 夢の見はては 今宵ぞと 思ひながらも 覚めばこそあらめ

さてもなほ 暮れぬる年の おもひ出では 厭ふ命の いけるばかりか

千載集・冬
降れば木々のこずゑに咲きそむる枝よりほかの花も散りけり

新古今集・冬
み吉野の山かき曇り雪ふればふもとの里はうちしぐれつつ