あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ
我が背子が古き垣内の櫻花いまだふふめり一目見に来ね
恋ふといふはえも名付けたり言ふすべのたづきもなきは我が身なりけり
三島野に霞たなびきしかすがに昨日も今日も雪は降りつつ
天離る鄙の奴に天人しかく恋すらば生ける験あり
常の恋いまだやまぬに都より馬に恋来ば担ひあへむかも
暁に名告り鳴くなるほととぎすいやめづらしく思ほゆるかも
焼大刀を磯波の間に明日よりは守部遣り添へ君を留めむ
油火の光に見ゆる我がかづらさ百合の花の笑まはしきかも
さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ
ゆくへなくありわたりたるともほととぎす鳴きし渡らばかくや偲ばむ
卯の花のともにし鳴けばほととぎすいやめづらしも名告り鳴くなへ
ほととぎすいとねたけくは橘の花散る時に来鳴き響むる
阿尾の浦に寄する白波いや増しに立ちしき寄せ来東風をいたみかも
ますらをの心思ほゆ大君の御言の幸を聞けば貴み
大伴の遠つ神祖の奥城はしるく標立て人の知るべく
天皇の御代栄えむと東なる陸奥山に金花咲く
いにしへを思ほすらしも我ご大君吉野の宮をあり通ひ見す
もののふの八十氏人も吉野川絶ゆることなく仕へつつ見む
白玉を包みて遣らばあやめぐさ花橘にあへも貫くがね
沖つ島い行き渡りて潜くちふ鰒玉もが包みて遣らむ
我妹子が心なぐさに遣らむため沖つ島なる白玉もがも
白玉の五百つ集ひを手にむすびおこせむ海人はむがしくもあるか
あをによし奈良にある妹が高々に待つらむ心しかにはあらじ
里人の見る目恥づかし左夫流子にさどはす君が宮出後姿
紅はうつろふものぞ橡のなれにし衣になほしかめやも