大蔵卿行宗
天の戸を おし明け方の ほととぎす いづくをさして なきわたるらむ
久安百首歌奉りける時 待賢門院堀河
まつほどに おどりやはする ほととぎす ただひとこゑの あかぬつらさは
中納言行平家の歌合に よみ人しらず
夏ふかき 山里なれど ほととぎす 声はしげくも きこえざりけり
藤原実方朝臣
みやこには ききふりぬらむ ほととぎす 関のこなたの 身こそつらけれ
返し よみ人しらず
ほととぎす なこその関の なかりせば 君がねざめに まずぞそきかまし
後鳥羽院御製
くれかかる 山田の早苗 雨すぎて とりあへずなく ほととぎすかな
参議雅経
里とほき たなかのもりの 夕日影 うつりもあへず とる早苗かな
土御門院御製
さなへとる 伏見の里に 雨すぎて むかひの山に 雲ぞかかれる
順徳院御製
みねの松 入日すずしき やまかげの すそのの小田に 早苗とるなり
右兵衛督基氏
今はまた 皐月きぬらし いそのかみ ふるのあら田に 早苗とるなり
前内大臣基家
やまかげの 小田のしめ縄 ながき日の くれかかるまで とる早苗かな
少将内侍
今日いくか ぬれそふ袖を ほしやらで おりたつ田子の 早苗とるらむ
太上天皇（後嵯峨院）
里なれて 今ぞなくなる ほととぎす さつきを人は まつべかりけり
權大納言公基
人知れず またれしものを さみだれの 空にふりぬる ほととぎすかな
従三位泰光
もろともに なくやさつきの ほととぎす はれぬ思ひの 雲のはたてに
權大納言忠信
かきくらす うき身もおなじ ほととぎす ながなく里の さみだれのころ
従二位家隆
いくとせか なきふるしてし ほととぎす かみなび山の さみだれの空
前大納言隆房
さみだれは あさ沢をのの 名のみして 深くなりゆく 忘れ水かな
大宰大弐重家
さみだれの 日数まされば あすか川 さながら淵に なりにけるかな
前大納言為家
あまの川 とほきわたりに なりにけり かた野のみ野の さみだれのころ