大型犬への告白・補

 

 

 青い目を瞬かせて若い男は戸惑う。申し訳なくてそれ以上、相手を直視する勇気がなかった。私は目を伏せ、毛布の下から出る。膝と腰に少し違和感があったが、覚悟していたより身体は楽に動いた。それがまた、自己嫌悪になる。今、私が楽なのは、この男が気をつけて抱いたからだ。

「あの、大佐……?」

 手を貸そうとしてくれる。

「大丈夫だ」

 丁寧に断ってシーツの端に落ちていた下着を身につける。床に投げ出された昨日の礼服の、シャツとスラックスだけ穿いて身支度。移動は同じ家の中、奥までの廊下だから、これで十分だろう。

「朝飯は?」

「今日はいい」

「風呂は?」

「部屋でシャワーを浴びる。……ありがとう」

 部屋へ戻る途中の廊下を男は、おろおろしながらついて来て。

「じゃあ、車、まわして来ますから」

「お前は非番だろう。休んでおけ」

 言い捨てて私室のドアを開けた。

「たい……ッ」

我慢しきれず、という風情で男が、閉めようとしたドアを手で阻む。覆い被さる距離になって、男の影に呑まれることに俺は正直、ゾッとした。こういう位置にはろくな思い出がない。

「……、怒ってンすか?」

逆光と近すぎるせいで男の表情は見えない。だが声が震えてる。正直な奴だ。

私は笑おうとした。出来なかった。答えようとした。それも出来なかった。あぁ、やっぱり怖いよ。大きな男は怖い。それが私に手を伸ばしてくるのは凄く怖い。何をされるか知っているから。

「すんませんって謝ったら、レイプしたみたいだけど違いますよ。でも突然だったのはすいません。大佐、酔ってたのに、すいませんでした」

 そこで言葉を止められた。言えばいいのに、私が悪いのだと。私が悪いんだ。本当に悪かった。申し訳ないことをした。

「したのは急だったけど、俺ずっとしたかったし。大佐だって知ってたでしょ。俺ずっと、あんたのこと」

「時間まで、少し休む。お前もゆっくりしろ」

するりと中に入ってパタンとドアを、締めてしまえば外からは開けられない。ドアの外側で呆然と立ち尽くす気配。あぁ、本当に申し訳ない。こんな態度をとるべきじゃないのは分かってる。まるでお前が悪かったみたいだ。でも今はこれが精一杯。すまない。

「……、大佐……」

 大きな声も出せるのにお前は怒鳴らないんだな。

「好き……、です。……、捨てないでください」

 捨てるとか捨てないとか、意味がよく分からない。私の持ち物でもないのにそんなこと、最初から出来る訳がないだろう。

 ゆっくり男は惜しそうにドアの前から立ち去る。すまない。私は本当にずるいことをしている。今、地位の高下で、お前の手を振り切った。

 すまない。本当に申し訳なかった。

 愛していないなら身体を繋げる、べきじゃないのに、やった。