すべからく、すべて・14

 

 

 ベッドの中で啓介は優しかった。いつでも服を脱いだ後はとても優しい。だから俺は、裸で啓介のそばに居るのが好きだ。とっても大切そうに撫でてくれるから。

 その夜もそうした。俺の内側が乾いてることを指先で確かめて、啓介は何時までも撫でてくれた。俺は、ヘンな気持ちになる。その気持ちのまま、一枚だけ羽織ってたシャツの前ボタンを、外した。

 して、欲しかった。

 セックスがスキ。啓介とするのが好き。それは少し、不純な好みかもしれない。純粋に、粘液の交歓を快楽としてより、啓介が……。

 俺を抱いて、満足そうに、笑ったり。

 俺の中で吐き出した後、深く息を吐いて、俺に倒れこんで来たりするのが……、スキ……。

 安心するんだ。とても。啓介が喜んでくれると、すごく。

 はだけたシャツの内側に啓介を、抱き取るみたいに腕を伸ばす。大人の男の、身体は重くて硬くて、とても暖かい。……あぁ。

 無事で良かった。そう思ったな泣けてきた。無事で……、良かった……。

 生え際、耳たぶ、目蓋、そして唇にキスされる。軽く目蓋を閉じたまま全身で感じる。何度も角度を変えて唇が重ねられる間中、男の固い指が俺を撫でていた。俺の、一番の、弱みを。

「……、んー……ッ」

 声が、漏れる。

「け……、すけ……」

 先を促した。早く、続き。お前が一番、好きなやり方で、俺で愉しんで……。

「今夜は出来ないよ」

 啓介の声は優しい。寝間でだけ聞かせてくれる柔らかな響き。寝床の中でだけ、『男』はオンナに、きっと本当に優しいのだ。その優しさを、俺はダイスキだった。渇きを感じるほど、もっと、もっと欲しい。啓介を満足、させるためならなんでも出来そうなくらい。

「レースウィークは、ダメなんだ」

 苦笑混じりの言葉の間にも、啓介は容赦なく俺を弄る。俺は殆ど、素裸でシーツの上で踊った。指先のほんの少しの刺激に身体中が反応する。

 ……久しぶりだし……。

 朝から、いいや昨日から、いろんな事が起こって気持ちが、昂ぶって……、それに……。

 さっきの啓介の不機嫌がまだ怖い。でも、これは機嫌をとるための演技じゃない。そうじゃなくて……、怖いとなんだか……。ちょっと……。

 苛められて興奮するなんて……、おかしいんだけど……。

「ぁ……、う、ン……」

 最後に深いキスをくれて、啓介は唇を解いた。俺は開放された隙間から、ひっきりなしの声が漏れるのを止められない。やだ、ヤダ……、やぁ……。

 そんな……、風にしな、い、デ……。

 仰向けに寝た俺の、片膝を抱えて状態を半分だけ、横向かされて、いる。啓介が好きなポーズの一つだった。眺めながら触れるのに都合がいい距離。俺は、恥かしさに顔も上げられず喘ぐ。そっと肘を上げて顔を隠そうとしたが、いつものように手を取られ、自分の手指まで一緒に……。

「ヒ、ひぃ、ヒ……ッ、ッ……、ぅ、ぅあ……ッ」

 嬲られる。他人の手に動かされているのに自分の、恥毛やアレに触れる感触がおかしな刺激で涙まで出て来る。全身が発熱して喘ぎだすのが、自分で、分かる。見てる啓介には、もっと分かるだろう。

「……、し……、テ……」

 叶えられないことは承知で、願った。

「な……、シテ……。ね、ぇ……」

 男に捕らえられた自分の指をそっと、自分の後ろに添わせる。何回もさせられた真似だった。だから要領も、ちゃんと分かってた。

「……サミ、シイ……」

 指先ほんの少しだけ。それ以上は怖くて自分では挿れられない。強請る言葉はウソじゃない。本当に、淋しい。

「ごめん、ダメ……。ナンかさ、興奮はしてんだけど、レース前って……」

「……近くに」

「うまく勃たねーんだよ。その代わり、終わるとヤリたくってしょーがなくなるケド」

「来て、くれ……」

「代わりにイッパイ、可愛がってやるよ。……ほら」

「ぁ……、ッ、アーッ」

 与えられたのは、指。

 それも啓介のじゃなく、自分の。

 誘うために本の少しだけ、爪の先だけ入れてた指の、根元をつかまれて。

「や……、イヤ……、イタ……ッ」

「爪、たてるからだ。ほら、ちょっと曲げろ。ナカ、痛めるぜ」

「いや、ヤダ……、やっ」

「俺のも挿れてやるよ。……キモチイイだろ……?」

 分からない。これが快楽がどうか、なんて。

「ほら、前もタレてきた。素直で、カワイイねぇ……」

 啓介の息が荒い。けど本当に、俺を抱こうとはしなかった。代わりに。

「……なぁ……」

 耳元に、擦り付けられる声が、低くかすれて、すごくセクシーだった。

「虐めていい……?ちょっとだけ……。ナ……?」

 耳たぶを噛む、みたいにされて、目の前が霞む。言葉の意味が……、拾えない……。

「あんたが悪いんだぜ。こんな時の、俺の前に来るから……。あいつに会ったり、するから……」

 いいなと念を押され頷く。逆らうことは、少しも考えなかった。

「いい子。……いい人形だ……。上出来……」

 ぎしっと、寝台が鳴る。

「ホントによく、出来てるよ……、ヤんなる、くらい……」

 意味が……。分からない……。