『欲望・6』
新王は、さすがに驚いたらしい。横たわる女に手を伸ばし、濡れた唇を撫でながら少し考えていた。
「……」
女は男の沈黙が怖いらしい。自分から薄くちびるを開いて硬い指先を含み、舐める。
「……僕はね、この人から聞いて」
愛情からではなく従順さへの褒美として、新王は優しいふりで、あいた手で女の髪を撫でる。
「あなたはこの人を嫌いなんだと思ってた。僕らに身柄を売り渡したことがあったし」
旧大国の王女さまの従兄弟にして幼馴染み。その血縁と実力でもって、政治の実権を握っている宰相。
「でも今回のことで疑いを抱いた。本当に嫌いならどうして、本人が逃げた後でのこのこやって来る。まるで身代わりに罪を被りに来たようなタイミングじゃないか」
え、という表情で、王妃は仰向けのまま、幼馴染みの顔を見た。その角度からは眼鏡が光を弾いて、表情は見れなかった。
「敗戦の時に突き出してきたんだって、あの隻眼のやけに強いじじぃ、あいつがこの人を楽にしちゃう前に、ここ送り込んだんだとすると、保護したことにならない?」
「ただの義務です。家臣としての」
「もっと重大な疑惑もある。君のところの、王太子殿下の死もちょっと、胡散臭い気がするなぁ。父王が病みついた直後の病死だよね。
えらくこっちも、タイミングがよくない?」
「……さぁ」
話しながら女の唇から指先を引き抜き、ちゅ、っと軽く、自分の唇を合わせた。
「君を口説くつもりだった」
新王の、告白は抱いている女にではなく、眼鏡の利け者の宰相に。
「この女は僕の兄が気に入ってた。だから、本番のセックスはさせられないけどまぁバックぐらいなら、ヤらせて君を、口説くつもりだった。君はこの人を好きだって踏んだから」
「罰当たりですね」
「それで駄目なら妻子で脅そうと思って今、母国から呼び寄せてるんだけど、仮面夫婦なら無理かな」
「そんなことはありません。愛情はあります」
「しらっとそんなこと言う男にそんなものある訳がない。……ねぇ、そう思うよね……?」
新王は組み敷いた女を撫でながら尋ねる。女はなんだかひどく動揺していて返事が出来なかった。
「この人を人質に停戦を申し入れられた時から、君とはなんだか、仲間のような気がした。犬が他の犬の尻の匂いを嗅いで同じかどうか確かめるみたいに、君に自分と近いものを感じた。……ねぇさん、横向いて。あぁ間違えた。もぅいいかねぇさんで。近親相姦っぽくてそそるし」
肩を押して、シーツの上の女を横向かせる。豊かな胸が横向きになっても、さほど形を変えないまま肘の下で重なる。そそられて手を伸ばし、二つまとめて、ぎゅっと乱暴に揉んだ。
「……ッ」
「いい女だよ、そこがまた面憎い」
嬲りながらさらに肩を押し、うつ伏せに姿勢を変えさせる。肘を引かれて四つ這いのポーズをとらされ、女は素直に男の望みに従った。そして。
「……ぁ」
前戯をたっぷり施された肢体は、刺激に耐え切れず悶える。
「あ、ぁ……、あ……」
シーツに這った指の爪までが、性的に炙られ興奮してサーモンピンクに染まっていく。
「色が白い女はコレだからたまんないよ」
見る見る染めあがってくる女を、抱いている新王もさすがに息が荒い。
「子供のころ見た最初の女の裸がこうなってるこの人で、女ってこういうものだって思ってた。実は違うの知ったときは逆に驚いたな。色変わりするのは、極上のほんのちょっとだった」
アレクサンドライトが太陽光と蛍光灯の下では色を変えるように、抱けば女は、みんな染まるんだと思い込んでいた。
「こういう人が最初の女っていうのは、幸せだけど不幸せなんだ」
「……、いや……ッ」
背後から脇に腕を差し入れられて。
「いや、ヤ……、っあ……」
羽交い絞めみたいにされて、シーツから上体を起こされる。繋がった場所をせめて隠そうとして手を伸ばすが、届かない。
「……やめて、アルフォンス、くん……」
「うん、それでいいやしっくり来る。僕にもイマサラ、あなた、とか言わなくていいよ、ねぇさん」
犯しながら膝に据わらせた女の腕を背後から捩り上げ、胸をそらせるようにして。
「この乳首、吸いたいと思わない?」
淫した目で新王が異国の宰相に告げる。