大阪市立自然史博物館の触る展示

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 7月25日と9月12日に、長居公園にある大阪市立自然史博物館に行きました。
 もう十年以上前に同館を訪れた時は、触れられる展示品は数点しかなく、またそれらの展示品の中にはあまり質のよくない物もありがっかりしたことがあります。でも最近は、同館では常設展示の中に「さわってみよう」のマークのついた展示物があり、それはだれでも触って良いということになっています(それらの各展示品には、点字でタイトルと簡単な解説文も付されている)。今回の見学では、実際に常設展示の中でどんな物が触って観察できるのか確かめてみましたので、以下にそれらについて簡単に紹介します。また、9月12日には、同館で毎月行われているジオラボにも参加しましたので、それについても最後に少し書いてみました。
 
●「さわってみよう」マークつきの展示物
 二上山産のサヌカイト: 30×20×20cmくらいの大きさ。断面には貝の内面を思わせるような面もあった。
 ナウマン象の第3大臼歯: 10万年前ころ。大きさは、長さ20cm、幅5〜6cm、高さ12〜13cmくらい。(たぶん右下顎骨の第3大臼歯だったと思う。)上面には、径が1cmほどの突起が10個ほど2列に並んでいる。途中からは下あご骨がなくなっていて、歯の根元から触れる。触れられなかったが、第二大臼歯も展示されていた。第二大臼歯がごっそりと抜け落ちた後に第三大臼歯が下から出てく。ナウマン象は日本では2万〜30万年前ころに生息。
 二上山の5種の火山岩: 1500万年前ころに噴火し、その時に出来たらしい火山岩。鹿谷・石切場・雌岳・春日山・明神山火山岩。春日山火山岩はサヌカイトとほぼ同じような断面・感触だった。
 三池炭鉱の石炭: 50cmくらいはある大きな塊。四角張った断面が多数観察できる。表面は、手でよく触られたためだと思うが、全体につるつるしていたが、下のほうの面はまだ新鮮さがあった。
 北海道産のアンモナイト: ユーパキディスカス。径30cmくらい。白亜紀後期 8500万年前。殻表面が侵食されていて、隔壁が複雑に褶曲している様子が分かる。触ると、小さな葉ないし爪のようなのがいくつも感じられる。一番外側の出口付近の体房(住房とも)に軟体部が入っていて、それに続く隔壁にはガスが入り、これを調節して浮沈みしたらしい。。
 恐竜の大腿骨: 太い所は径が30cm余あった。
 ブラジル産の黒水晶: 全体は60〜70cmくらいもある大きな塊で、多数結晶面を確認できる。大きな結晶面には、さらに小さな、数mm程度の結晶も多数あった。
 クスノキの年輪: 直径70cmほどもある大きな切り株。年輪を触って数えてみたら70本くらいだった。年輪の中心は、切り株の中心よりもやや奥側にあって、手前側の年輪幅は奥側のそれよりもかなり広い(たぶん手前側が日当たりの良い側。年輪幅は手前側では、最初は2cmくらい、次第に狭くなり、終りのほうでは急に狭くなって3〜5mmくらいの年輪が続いている。奥側では、中心から20cm弱の所に横に真っ直ぐ割れ目のようなのがあり、その先では両側から内側に巻き込むように年輪が数本ずつ数えられる。)解説文によると、この木は67年で伐採されたということだが、43年目に幹が大きく傷付けられ、その修復に19年ほどかかり、その後5年で切り倒されたという。その経過が年輪にもはっきり表われていて、とても優れた標本のように思う。
 大きな貝たち: 世界最大の2枚貝オオジャコ(長さ1mくらい、幅40cmほどで、ほぼ完全な形で2枚の殻が開いた状態で展示されていた。殻の内側面は触ってもとてもきれい)、世界最大の巻貝アラフラオオニシ(長さは60cmくらい)、日本最大の巻貝ホラガイ(長さ40cm弱)、トウカムリ(長さは20cmくらいの巻き貝だが、殻はとても厚く、貝細工にも使われる)。
 
 その他、とくにマークはなかったが、恐竜の足跡のレプリカ(長さ60〜70cm、幅50cmくらい。爪の痕のような食い込みも数個あった(や、琵琶湖に住むゲンゴロウブナとニゴロブナの骨格模型と全体の模型(ゲンゴロウブナは50cm弱、ニゴロブナは40cm余。形はよく似ているが、ゲンゴロウブナのほうが頭の幅があり体に対する割合が大きいような気がする。ニゴロブナはフナズシの材料)などにも触った。
 
●ジオラボ(9月)「中生代の海のは虫類」
 上記のタイトルから、多くの人は恐竜も想像したのでしょうか(私もその1人でした)、参加者は80人もいて、これまででいちばん人が集まったとか。
 講師は、大阪市立自然史博物館の地史研究室学芸員・林昭次先生です。(林先生には、7月25日に常設展を見学した時に、ナウマン象の骨格標本に関連して、肋骨が脊椎や胸骨とどんな風につながっているのか質問したところ、淡路島で死んでいた鹿の骨格標本を持ってきてくれて、丁寧に説明してもらいました。)
 まず、林先生から参加者に「モササウルス類は恐竜の仲間だと思う人」という問いかけがありました。私は「○○サウルス」という名前なのだから、なんとなく恐竜なのだろうというくらいのつもりで手を挙げたのですが、それはまったくの大違い。陸生の爬虫類だけを「恐竜」と言うのだそうです。(私はそれさえ知らず、恐竜のど素人であることを実感!かえって興味をもちました。)モササウルスは、現在のトカゲに近い仲間で、世界最大のコモドドラゴンが海に入って海に適応したようなものと考えてもよいとか。(現在も、ガラパゴス諸島には海で泳いだり潜ったりして海草を食べるウミイグアナ(ウミトカゲ)がいるそうです。)モササウルスの復原画を見てなのでしょう、細長くてヘビのようにも見えるとかの声もありました。
 もちろん、定義ばかりでなく、実際にモササウルス類と恐竜にはいろいろ違いがあるとのことです。私にはよく分かりませんが、まず体全体、とくに頭部の形が、モササウルスは恐竜あるいは現在のワニなどとはだいぶ違い、コモドドラゴンなどと似ているようです。また、恐竜では大腿骨が腰から真っ直ぐ下に伸びているのにたいして、モササウルスは、現生のトカゲやヘビなどと同様、足(鰭)が横に出ているそうです。さらに、モササウルスの皮膚の跡も見つかっていて、その鱗は、魚やヘビなどと同じように重なり合っているそうです(恐竜では、鱗はタイルを貼り付けるように平面的に並んでいる)。歯についてみてみると、モササウルスではふつうの外側の歯列の内側、喉のほうにももう1列歯があるそうです(翼状骨歯と言うらしい)。このような歯の生え方はニシキヘビなどでも同じで、この点ではモササウルスはヘビ類とも近縁のようです。
 その後、モササウルスが何を食べていたのかについて話がありました。国内のモササウルス化石の腹部からアンモナイトの通称カラストンビ(顎板)が見つかったり、アンモナイトの化石にモササウルスの咬み跡と思われる穴らしきものがあったりすることから、アンモナイトや貝などを食べていたのではということです。また、ネットでちょっと調べてみたら、三重県立博物館所蔵の、アメリカ・カンザス州のニオブララチョーク層産出のモササウルスの胃からは魚の骨が見つかっているそうです。実際には、それらに限らず何でも食べていて、白亜紀後期の海の覇者のようです。
 林先生の話は30分余で終わり、その後は、大阪で見つかったモササウルスの化石をはじめ、比較のために恐竜などの化石や現生のワニやヘビやウミガメ?などの骨格標本を参加者が自由に見るということになりました。このように参加者が多く、皆さん自由に見てください、というような場面では、私はしばしばどうしようもないことになるのですが、今回は偶然にとてもうまく行きました。
 会場には、化石の専門家の谷本先生がジオラボへの協力ということで来られていました(谷本先生は以前大阪府盲学校の美術の先生をしておられ、そのころ親しくさせてもらっていました)。6、7年ぶりの再開で、とても幸運でした。谷本先生は私に、持参してきた香川県さぬき市の兼割で見つかったモササウルスの顎の化石のレプリカを持たせ、参加者に見せる役割をさせてくれました。その化石は、白亜紀のシャンパーニュ期(Campanian: 7210万年前〜8360万年前)後期のものだそうです。大きさは20×20cmくらい、厚さは2〜3cmくらいで、全体にゆるやかな曲面になっています。そこに下顎と上顎の歯が数本ずつ触って分かります(歯の部分は回りよりつるうっとした手触りで、少しふくらんでいる)。下顎の歯は下を向き、上顎の歯は上を向いています(顎が開いて完全に反り返っている状態を想像しました)。歯の先はかなり尖っていて、全体としては円錐形ではなく少し平べったい形のようです。ただし、モササウルスの歯にはこのほかにも、円錐形のもの、セレーション(鋸歯状のぎざぎざ)のあるもの、どんぐりのように先が丸っぽいものなど、食物の種類に合わせていろいろな形があるとのことです。このレプリカで私がいちばん興味をもったのは、上顎が途中で2cmくらい横に大きくずれていて、その断層で歯が根元の部分と先の部分に別れてしまっていることでした。
 また、最後にはもう1点、大阪市立自然史博物館所蔵のモササウルスの下顎の化石のレプリカも触ることができました。これは、昨年秋に高校生が大阪府泉南市の山中で発見したもので、マーストリヒト期(Maastrichtian: 6600万年前〜7210万年前)のものだそうです。全体の大きさは、長さ10数センチ、高さ10cm弱、幅5〜6cmくらいで、上面に径が1cmほどの円いふくらみが数個あります(これは歯の歯髄の部分らしいです)。このレプリカでとくに興味深かったのは、その円いふくらみのすぐ近くに、尖った歯の雌型のような空洞がほとんど横向きにあったことです。これは未萌出歯(顎の骨の中に埋まっている葉)の雌型で、なんとこれにぴったりと対応する歯が、2010年に泉南市で発見され現在岸和田自然資料館にあるモササウルスの下顎の化石に残っているそうです。大阪市立自然史博物館の資料と岸和田自然資料館の資料は、同じモササウルスの下顎の上下の部分が別々に発見され(大阪市立自然史博物館のほうが上のほう)、別々に所蔵されているわけです。
 
 今回のジオラボでは、偶然お会いすることのできた谷本先生のお陰で、とてもよい勉強になりました。
 
(2015年9月20日)