楽しい彫刻展――第25回 手で見る彫刻展

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 12月8日から13日まで、第25回 手で触れて見る彫刻展が、藤沢市民ギャラリー第1展示室(ルミネ藤沢店6階)で開催されました。今回の会場は、JR藤沢駅に直結するビルでしたので、これまでよりも多くの人たちが訪れてくれたようです。
 今回の「手で触れて見る彫刻展」では、桑山賀行先生の作品が4点、それに先生が主宰する土曜会の20人近くの70点くらいの作品が展示されていました。私も、昨年に続いて、今回も5点出展させてもらいました。
 まず、私の出展した作品を以下に紹介します。
 
●合掌 (20×12×16cm)
 地に座し、力強く、思いを込めて祈っている姿です。全体の形は、八戸の是川縄文館にある国宝の合掌土偶のレプリカに触った時の印象を参考にしています。
 頭の後ろにあるのは、合掌している小さな手3つです。
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●考える手 (17×13×11cm)
 考えている時の手の姿を想像して作りました。そして、考えている時の脳のはたらき、脳の中の神経が密に連絡し合いつながり合っている様子も思い浮かべながら、それを手のひらに刻印してみました。
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●花開く (35×25×10cm)
 太い幹から、枝が上にも横にも下にも伸び、その枝すべてに花が開いている姿を表わそうとしたものです。元気よく伸びている姿にしようと思って、直線的にしました。そのためもあってか、一見、手なのかな?という人が多いです。細かい花それぞれをきれいに彫るのはとても難しかったです。それでも、力強さ、生命感は伝わっているようです。
 なお、この作品は、30×18×9cmの角材から作っていて、左下を斜めに切り取って、大きく見えるようにしています。
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●航(わたる) (30×15×7cm)
 大洋や天空をわたる船をイメージして作りました。船首の鳥(タカ?)と両舷の魚(サメ)に導かれ、人がその導きに身を任せて天を仰いでいます。
 大きな作品で、とくに中央の部分を両側からくり貫くようにして取り外すのがたいへんぜした。
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●花トロフィー (直径10cm、高さ28cm)
 チューリップの花をよく触って作ったものです。花弁は内側と外側に3枚ずつ、おしべは6本、めしべは先が3つに別れています。花びらに囲まれた空間は、ふわっと暖かみを感じることがありました。茎を持って掲げてみてください。
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 私は、12月12日に藤沢に行き、12時前から午後4時くらいまで会場にいました。行きの新幹線の自由席では、職場の点訳ボランティアの方と偶然に隣り合わせ、びっくり!さらにその方は、藤沢の遊行寺(時宗の総本山で、一遍上人で有名)で開催中の特別展「国宝 一遍聖絵」を見に行くということで、行き先も一緒、藤沢まで楽しく歓談し、彫刻展の会場にも立ち寄って私の作品もふくめ見てもらいました。
 会場には見学者も多く、皆さんゆっくり見て触って回っているようです(6日間で約1300人の来場者があったそうです)。私も、桑山先生はじめ、土曜会の皆さんに久しぶりにお会いし、また展覧会を見に来てくれた東京方面の知り合い10人近くにもお会いすることができました。
 また、私の作品についても、見えない人たちを中心に何人かに詳しく私自身で解説しました。「どのようにして彫るのだろうか」など、ちょっと驚いたような反応が多いです。「ちょっと変ってる」という声のほか、「バランスがとても良い」とか、中には「建築的だ」と言ってくださる方もいました。ある方は、「小原さんの作品で今回気づいたのは、どれも作品の「中心」が取れているということです。これを認識できているからデザイン上だけでなく、彫刻の際の重さのバランスも取れるのですね。」と書いてくれました。
 
 次に桑山先生の作品4点を紹介します。
●赤とんぼ
 最初触った印象は、なんかうねうねしたものが横倒しに転がっている感じでよく分かりませんでした。全体は、花瓶に挿したひまわりが枯れてしまい、花瓶ごと倒れ、そのひまわりに赤とんぼがとまっているというものです。
 手前に、直径7cmくらい、高さ10cmほどの花瓶が倒れた状態であり、さらに花瓶の底の片側が割れてそこからひまわりの茎が出ています。花瓶からはひまわりの茎が2本斜めに40〜50cmほども伸びています。途中には枯れたような葉もあり、さらに先のほうはくねーっと湾曲してその先に枯れたひまわりの花があります。花の中央部はざらざらした実がたくさんあり、回りには枯れたような花びらや萼?が取り巻いています。一方のひまわりの花の所に、翅を広げた幅が10cmくらいのとんぼがとまっています。
 作品解説には「赤とんぼの飛ぶ季節を表現しました」とあります。放置されてしまった秋、過ぎ去ってゆく秋を表現しているのでしょう。
 
●とんがり帽子
 この作品は、日本のなつかしの童謡の歌詞に描かれている情景を彫刻にした「日本の歌シリーズ」の1点です。
 手前に男の子が、右手に棒を持って、こちら向きに立っています。男の子の回りは草原のようで、男の子は棒で草をなぎ倒しているようです。男の子の向こうには丘へと道が続いています(この道も遠近法的に示されていますが、その途中に急に窪んでいる所があります。このように途中に窪みや大きな切れ目があると、その後ろがより遠くにあるように見えるようです)。そして丘の上には、とんがり屋根の家が3軒あり、その真中の家は時計台なのでしょうか、高く飛び出ていて四角錐の屋根になっています(各家には、窓なども触って分かる)。ちなみに、このとんがり帽子の風景は、桑山先生の生まれ育った常滑市の原風景だということです。
 
●昨日見た夢
 1辺が60〜70cmくらい、高い所は70cmくらいもある大きな作品です。
 手前に女の子が立ち、その前にざらざらした手触りの山のようなのがあります。これは瓦礫を表しているそうです(ざらざらした手触りは、木屑に接着剤を混ぜたものを付けて作っているとのことです。)瓦礫の向こうには煉瓦壁があり、古そうな扉や窓があります。女の子の右側には、奥に向って上り階段が伸びて向こうの空間に開いています。階段の右側も高い煉瓦壁になっていて、大きな窓があります。そして、向こうの煉瓦壁と右側の煉瓦壁の上には、大きく羽をひろげた大きな烏がおそらく10羽以上も、互いに羽を接し重なり合うようにこちら向きにとまっています。
 作品解説には「ヨーロッパ旅行の印象を形にしました」とあります。廃墟のように荒れた風景を表しているようです。
 
●森への道
 上の作品よりやや小さめですが、印象は似た感じの作品です。手前に女の子が立ち、かなり離れて向こうに大きな木があります。女の子の右側には道が奥に向って続いており、さらにその道の右側奥には森がひろがっています。
 
 先生の作品では、とくに「赤とんぼ」と「昨日見た夢」が印象深かったです。鑑賞者を、じんわりと、奥深く広いイメージの世界に誘い引き込むような作品だと思います。
 ちなみに、先生は、11月15日の午前4時代の、NHKラジオ深夜便の明日への言葉という番組で「手で見る彫刻展の25年」というタイトルでお話しをされました。25年前から続けているこのような彫刻展を振り返り、見えない人たちの触り方や、触ってどんなことが分かるのかなどについて具体的に話していました。最近見えない人で木彫を始めた方がいるということで、私のことにも少し言及してくださいました。
 先生のお話の中で今も心に残っているのは、次の2つです。「作品は100%まで仕上げずに7、8割くらいの仕上げで止めておいて、あとは鑑賞者に委ねている。」「70歳、80歳になって、手の力が無くなってのみが自由に扱えなくなった時に、自分の作品がどんな風に変わっていくのか、とても楽しみです。」私もできるだけ長く彫刻を続けて、作品の変化を楽しめるほどになりたいものです。
 
 土曜会の皆さんの作品も、それぞれにとてもよかったです。これらの作品を触り、また作家さんの解説も聞くことで、私のイメージの世界はひろがり、また作品製作のヒントにもなります。
 その中でとくに印象に残っているものを2、3挙げてみます。
 Kさんの「水子白衣観音像」。両手に小さな赤ちゃんを抱き、その赤ちゃんを観音様が見つめています。私は赤ちゃんの顔を触って、その細かい表現から、これはなにかくるしみを表しているように感じました。そのあとでKさんから、奥様が流産したことがあったというお話しをうかがい、心にぐっときました。
 Yさんの「鶏の親子」。大きなずんぐりした感じの親鶏と2羽のひよこがセットになっています。親鶏の羽の1枚1枚がとても細かくリアルに表現されており、また、大きな体は直径1cmくらいの細い1本の脚で支えられていることにも感心しました(もう一方の足先の爪もとてもよく表現されていた)。もう1点、「タゲリの親子」というのもあり、私は初めてタゲリに触れました。
 Tさんの「なかなか食わないな」「石でも食らえ」「あ!食った あとで小さいのが釣れたらあげるから取るなよ」の3点は、孫と釣りに行った時の一こま一こまを作品にしたもので、面白かったです(3点目で、ようやく釣糸の先に魚が掛かって、安心しました)。
 また、Kさんの、拾ってきた流木に少し手を加えていろいろな作品にしたものも面白かったです。その他、千手観音、十一面観音、持国天や広目天など、例年同様、仏像類も多数出品されていました。
 
 この桑山先生の「手で見る彫刻展」は、私にとっては自分の作品を出展させてもらって多くの方々に見て触ってもらえる機会であるとともに、先生や土曜会の皆さんの作品にじっくり触れて私のイメージの世界をひろげるよい機会にもなっています。また来年の彫刻展に向けて、制作に励みたいと思います。
 
(2015年12月24日)