桑山賀行と土曜会展 ふたたび

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 桑山先生から案内をいただき、昨年に引き続き今年も、12月21日に、藤沢市の市民会館で開催されている「桑山賀行と土曜会 第23回手で触れて見る彫刻展」に行きました。(昨年の彫刻展については、楽しい彫刻展――「桑山賀行と土曜会 手で触れて見る彫刻展」と「日展京都展」)藤沢までの往復はたいへんですし、ちょっと躊躇しましたが、桑山先生の作品に会いたいとの思いで出かけました。
 今回は藤沢駅から会場までの行き帰りを誘導ボランティアの方にお願いし、また会場では桑山先生はじめ、作者の皆さまや藤沢市点字図書館のスタッフの方々に案内・説明してもらって、とても心和む楽しいひとときを過ごしました。
 桑山先生の作品は、次の3点が展示されていました。
 まず、「演者Y」。これは昨年末の日展京都展で一度触ったことのあるものです。日展京都展では台の上に置かれていたために上のほうの人形遣いの手はごく一部しか触れなかったのですが、今回は上まで触れるように床の上に直接置き、またどの方向からでも触れるようにしっかりスペースが設けられていました。
 この作品は、文楽の人形と人形遣いを題材に10年近く前から制作を続けている一連の作品の一つだとのことです。一番下のほうは直径40〜50cmくらいの楠の自然の幹です。その途中から人形の衣装になってゆきます。足は衣装に隠れているのでしょうか、触っては分かりませんでした。両袖からは、小さな手が出ています。右腕は上に上がっていて、人形の小さな右手の所に人形遣いの大きくて分厚い右手があり、さらに上にその腕が伸びています(高さは180cmくらいになる)。人形は帯を締めていて、後ろに回ってみると帯が何重にも折りたたまれています。体を左に傾けるようにして、左手は下に垂らし、首(かしら)を右斜後上方に向けています。首の根元には四角い胴串があります。首元を触ってみると、一番内側はふわあっとした感じの厚い着物(綿入れだそうです)で、その外側に薄手の着物が3枚重なっています。顔は、とてもかわいい女の子のようです。口、鼻、目、どれもとてもきれいと言うか素晴らしいです。そして、目は下瞼がしっかり開き目線は人形遣いの大きな手に向いているようです。
 この人形は、実はふつうの3人遣いの文楽人形(主遣いが首と右手、左遣いが左手、足遣いが脚を操る)ではなくて、1人で1体の人形を操作する八王子車人形をモデルにしているとのことで、桑山先生は実際に八王子に出かけてこの八王子車人形をしっかり観察したそうです。八王子車人形では、人形遣いが3つの車がついた箱形の車に腰掛けて人形を1人で操ります。人形のかかとについている「かかり」と呼ばれる棒を遣い手の足の間に挟んで人形の足を動かし、また右手で直接人形の右手を動かし、左手で人形の左手と首を操り、さらに指で目・口・眉まで操作するそうです(八王子車人形西川古柳座などを参照しました)。
 当日頂いた出展リストで、桑山先生はこの作品について「文楽人形が人形遣いの手によって命を与えられたように動き出すとき、それが神の手のように思えます。人形に命を与える瞬間を思い描いて形にしました。」と書いておられます。「神の手」とはいったいどんな手なのでしょうか?
 
 次に触ったのが、「落ち花」。ごろうっとした大きなかたまりのようなのが転がっている感じで、触って何なのか最初は見当がつきませんでした。よく触ってみると、なんか花らしいことは分かります。道に落ちた椿の花を彫刻にしたとのことで、高さ50cmくらい、直径40cm弱の大きな花がごろうっと横倒しになっています。こういう、つい忘れ去られてしまいそうな物まで、えっ!と思うような作品になるのですね。
 
 3点目は「鳩」です。全体の大きさは、幅20cm余、高さ20cm、奥行き20cm弱の作品です。手前に棒がいくつも並んだ柵のようなのがあり、それらの棒の先端に鳩が全部で6羽、向こう向きでとまっています。羽を閉じているもの、羽を上にまっすぐ伸ばして飛立とうとするもの、さらに数羽はひろがった羽の一部が重なっています。向かって右奥には、半そでの制服のようなのとスカートを着けた女の子がこちら向きに立ち、両腕を肘の所で曲げて前に出し、その左手には向こう向きに鳩が1羽とまっています。
 出展リストには、この作品について「日本の歌鳩をテーマに制作しました」と書いてあります。「鳩」の歌詞を何十年ぶりかで思い出してみました。
ぽっぽっぽ はとぽっぽ 豆がほしいか そらやるぞ みんなでなかよく食べに来い  なんとも微笑ましい心和む作品ですね。

 土曜会の生徒さんたちの作品も多数展示されていました。一部は昨年と同じ物もありましたが、新たに出展した作品も多くあり、時々作者本人の解説も聞きながら楽しみました。以下に、いくつかこれはすごいと思った作品について書いてみます。
 まず、Oさんの「牛と少年」。大きな牛がごろんと寝転んでいて、その上に片手に本を持った少年が座っています。なんかゆったりしたひとときを感じさせる良い作品です。この方の「めじろ」もよかったです。
 次にAさんの「龍頭観音」。お顔もきれいな観音の上に龍の口があり、びっくり。さらにその上には、鱗かなにかを示しているのでしょうか、三角のがたがたがいくつも続いています。観音の足のほうを触ってみると、回りはぐるぐる巻きにされています。観音の背のほうには細かいがたがたの筋が横に多数走っていて、龍が観音の背中を駆け上がり、上から観音の頭に向って行ったようです。さらに、龍頭観音の向って右には普賢菩薩、左には文殊菩薩(右手で天を、左手で地を差していた)も配されていました。
 Yさんの「ひまわり」と「とうもろこし」。これらは、実物そのままを触ったような感じで、材料が木であることを感じさせないほどでした。ひまわりは、直径7〜8cmほどの所に種が密に並び、回りの開いた花弁や葉や茎まで本物を彷彿とさせます。とうもろこしは、包まれた葉の間から少し実がのぞいていて、3列ほどきれいに実が並んでいます。
 その他、印象に残っているものに、Kさんの「十一面千手観音像」(合掌した手のほかに40本手があり、それぞれいろんな物を持っている)、Kさんの「修行僧」(直径10cm余の木の幹の途中に穴が彫られ、その中に僧が座している)、Kさんの「握った手」、Tさんの「我が家の愛犬ハッピー」と「ハッピー」(シュナウザー犬で、顔は四角っぽく、耳は垂れている。前者は独特のポーズで座り、後者はお手をしている)、Hさんの「毘沙門天立像」(邪鬼を踏みつけている)と「帝釈天」(象の上に座っている)、Hさんの「阿修羅像」(三面六臂)、Yさんの漆のいろいろな作品などがありました。

 私は、以前に作ったペンギンの木彫を持って行って先生に見てもらいました。そしたら「たいしたもんじゃないか」と褒められ、材料の木はいくらでもあるから送るのでやってみないか、そして来年のこの彫刻展に出してみればよいと言われました。何十年も前に買った5本セットの安い彫刻刀でこれまでにペンギンのほかにもいくつか作ったことはありますが、できたらもう少し良い彫刻刀を買ってまた試みてみようかと思っています。

(2013年12月24日)