土曜会展でギャラリートーク

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 今年も、12月12日から15日まで「第29回 手で触れて見る彫刻展〜緕R賀行と土曜会」が藤沢市の藤沢市民会館 第1展示集会ホールで開催されました。出展者は20人、約80点が展示されました。木彫ばかりでなく、テラコッタや、木と陶、あるいは金属なども組み合わせた作品もあり、いつものように多彩な作品群でした。また、同時開催として、「作ってみよう!さわれる版画 浮世絵刷り体験」「指で読む絵本ってどんなもの?」「世界の楽器に触れてみよう」も行われ、とくに世界の楽器のコーナーではいつも音が聞えていました。私も、「相州江島金亀山」(江島神社は、17世紀に仏教との習合で明治初めまで「金亀山与願寺」と呼ばれたそうです)の刷り体験をしました。
 今回私は、4点出展するとともに、14日午後1時から30分ギャラリートークをさせていただきました。今回の手で触れて見る彫刻展と私のギャラリートークについては、13日午後6時代のNHKの首都圏のニュースで取り上げられ、また当日の読売新聞の首都圏版?の朝刊にも掲載されていた(その他地元の新聞や放送でも取り上げられていたようです)こともあるのでしょうか、ギャラリートークには60人以上の方々が来てくださりびっくりでした。目の見えない方も数人おられて、その方々には前の席でそれぞれ作品に触ってもらいました。

 私が出展したのは、次の4点です。これらについては、ギャラリートークの時にも解説をしたので、その内容も付け加えました。
●ドラム缶 T つぶれても壊れない
 西脇市にある経緯度地球科学館で、真空ポンプで空気を抜いて大気圧でつぶれてしまったドラム缶を触りました。側面の 3方向から押しつぶされて、120度置きに 3つの壁に支えられた形になっていました。とても理にかなった形ですし、ちょっと感動しました。(私自身これからはつぶれていくだけ、でも、骨組みだけはしっかりと壊れないでいたいものです。)
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 ドラム缶シリーズはこのほかに、「ドラム缶 U 破裂しそう」(熱でドラム缶の中の圧力が高くなって破裂寸前の状態)、「ドラム缶V:爆発!(爆発した瞬間)、「ドラム缶 W 踏みにじられる」の計4点あって、当日は「ドラム缶 W」を持参し、皆さんに回覧しました。タイトルは言わずに皆さんに触ったり見たりしてもらって何を表わしているのか想像してもらいましたが、思うようには応えはなかなか出てきません。私としては、巨人が大きな左足でドラム缶を踏み込んだところを想像して作ってみたもの。(この材料の木には深い割れが多く、一部はドラム缶の割れにした。)写真はこちら
 
●めぐりめぐる
 3本の帯がねじれながらリングを1周してもとに戻るように作りました。いろいろ紆余曲折はあっても元に戻って、またやり直しです(なんか私みたい)。「メビウスの帯」をヒントにしました。3本の帯を完全に切り離してしまうとばらばらになってしまうので、1箇所で帯で止めるように3本がまとまっています。
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●やさしい鎖
 もう4年ほど前、木彫でどのくらいのことができるのかと思って試しに彫ってみたものです。側面には花模様のようなのを彫りたかったですが、まったくできず、ねじれにしました。(私としては、こんなのが作品と言えるのかなあという感じですが、皆さん、木で鎖を作るということに感心するようです。)
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●結晶
 立方体の各頂点と中心に原子がある結晶模型(体心立方孔子)をイメージして彫ってみました。1つ1つがぜんぜん丸くないのでなかなかそのように見えないと思いますが、透明感はあるかもしれません。彫り貫くのにとにかく苦労しました。なお、斜めになっている面から見ると、別のようにも見えるかもしれません。
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 ギャラリートークでは、上の作品解説のほかに、木彫を始めたきっかけと、どのようにして制作しているのかについてお話ししました。
 私が木彫を始めるようになり、続けられているのは、まったく緕R先生、そして土曜会のおかげです。
緕R先生はもう25年以上も前から手で触れて見る彫刻展をされてきましたが、私は、2012年末の「点字毎日」紙上で初めて先生がこのような展覧会をされていることを知りました。さっそく藤沢市で開催されている「緕R賀行と土曜会 手で触れて見る彫刻展」に行きました。その時は先生は不在でしたが、先生の作品数点と土曜会の方々の多彩な作品を鑑賞できました。翌年末にも藤沢の土曜会展に出かけ、初めて先生にお会いすることができました。その時、持参していた小さなペンギンの木彫を先生に見ていただいたところ、「たいしたもんじゃないか」と褒めていただき、さらに「材料の木はいくらでもある、送るからやってみないか、そして来年のこの彫刻展に出してみれば」とお声をかけていただきました。
 この小さなペンギン、もう15年ほど前、バードカービング展で、高さ70cmくらいあったでしょうか、松の丸太を荒く彫り出したようなペンギンを触った時の印象から彫ってみたものです。当時、私は一度もペンギンに触ったことはないし、ペンギンのイメージもあまりないまま彫ったのですが、皆さんに見てもらうと意外にも好評で、しばしば鞄の中に入れて持ち歩いていました。[ペンギンの写真はこちら
 さっそく、2014年の初めから木彫を始めました。私の希望する寸法に合わせて先生から材料のクスノキを送ってもらい、切れなくなった彫刻刀も先生のところに送って研いでもらっています。私はただ彫っているだけ、なんとも楽に木彫をさせていただいています。そして、その年から毎年、土曜会展に数点ずつ出展させていただき、また先生の作品や土曜会の皆さんの作品に触れて鑑賞するのを楽しみに藤沢に出かけています。
 
緕R先生に木彫の材料をお願いする時には、すでに作品の完成像がだいたい頭の中にあり、材料が届くと、その頭の中の形を目指してただ彫っていくというのが基本です。
 実際のやり方はいろいろですが、一番大切にしているのが全体のバランスです。ですから、送られてきた材料のどのあたりに、イメージしている形のどの部分が対応するのか、指や物差しを使って全体と部分の割合を測ったりしながら彫刻刀を入れていきます。そして自分の頭の中のイメージにどうやって近付けていくか、その都度触って確認しながら考え、それからまた彫るということを繰り返します。彫刻刀の使い方や彫り方などについても自分なりに考えなければなりませんので、いつも試行錯誤の繰り返しになります。
 
 私の話は15分余で切り上げ、皆さんからの質問お受けました。質問としては、@「結晶」の穴をどうやって彫っているのか、A手がかりとなる線などをあらかじめ入れているのではないか、B手を傷つけることはないか、Cどの時点で完成ということにしているのか、などたくさん出ました。
 @については、穴を彫るのには柄の長い彫刻刀を使い、また、1方向からだけ彫るのではなく、3方向から同時に彫って行って、その交差点を目指して彫るようにして、なんとか貫通させることができました。とにかく多数の穴を彫らなければならなかったので、たいへんでした。Aについては、ほとんどの作品で、紙を張り付けたりして、その紙の縁に沿って手がかりとなる線を彫刻刀で入れています。今回の「結晶」では何十本も手がかりとなる直線を入れたので、表面は筋だらけになりました。Bについては、最初のころはしばしば手を傷つけることはありました。ほとんど血がにじむ程度で大きく切るようなことはありませんでした。彫刻刀を使っている時だけでなく、20本くらいある彫刻刀の中から必要な彫刻刀を選ぶ時に刃を触ってちょっと傷ついたり、彫刻刀で削っている時に彫刻刀を持っている手が材料の木に擦れて傷つくこともあります。Cについては、自分の思っているイメージのまあ6割も出来ればいいかなと思って止めています。仕上げらしいこともほとんどしていません。細かい所まで丁寧に彫るのは私にはなかなか難しく、無理して彫るとかえって全体の形が悪くなるような気がして、ある程度のところで止めています。私にはうまく彫ることはできなくて、先生もありがたいことに、それを認めてくださっているようです。
 短い時間でしたが、皆さん真剣に聴いてくださっているような雰囲気が伝わってくるようなギャラリートークでした。ありがとうございました。
 
 土曜会の皆さんの作品については、今回はゆっくりすべてを触る時間はありませんでしたが、いくつかとても興味を魅くものがありました。
 まずHさんの「龍燈鬼」と「天燈鬼」。ともに高さは30cm余。龍燈鬼は、上半身に蛇が巻き付き、右肩あたりでその蛇が頭をもたげ、またお腹の前あたりで右手で蛇の尾を掴み、その右手首を左手で握っているようです。頭の上には6角形の燈籠が載っています。天燈鬼は、右腕を斜め右上に伸ばし、左肩に6角形の燈籠を載せ、それを肘を曲げて外側に開くようにした左手で支えています(顔には角のようなのがあったように思う)。これらは、興福寺に安置されている木像だとのことです。
 Mさんの「太鼓と横笛の共演雲中供養菩薩」はよかったです。ところどころ渦巻きや花模様のようにも思われるふんわりとした雲の上に、2人の菩薩がいます。1人は両手にそれぞればちを持って振り上げるようにし、すぐ近くには太鼓があります。もう1人はおだやかに笛を吹いている姿です。天からなんとも楽しげな音が聞えてきそうな作品です。
 Tさんはいつも馬の作品で楽しませてもらっていますが、今回は「八部衆面の緊那羅」と「顔のなる木」という面白い作品を展示していました。八部衆はもともとは異教のインドの諸神で、釈尊に教化されて仏法を守護する役をするようになったもの。緊那羅はその1つで、頭の上にさらに馬の顔のようなのが載っていてびっくりでした。この姿で、美しい声で歌をうたうとか。(八部衆は、緊那羅のほか、天、竜、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、摩ご羅伽。)「顔のなる木」は、木の幹らしき所や枝の付け根のような所に、10個以上のいろいろな顔がきれいに彫り出されています。1ヶ月余前に民博の「驚異と怪異展」で立体コピー図で説明してもらった「頭のなる木」を思い出しました。
 Yさんはいつも鳥のきれいな作品を出していますが、今回は鳥の作品とともに、「ねずみとブーツ」があって、これも素晴らしい作品でした。ねずみが2匹、ブーツの上とブーツの横に配されているのですが、とくにブーツが、靴の底や紐の編み上げの感じなど、とても精巧でした。また、Oさんの「ねこたち」(2匹)もそれぞれ特徴のある立ち姿でよかったです。この作品では、木とともに一部陶が組み込まれていました(このほかの作品でも、木と陶ないしテラコッタを組み合せた作品がありました)。ほかにも、各種の仏像をはじめ、出展者のご家族の像、さらには天使の作品(羽は金属が用いられていた)など、多彩でした。

(2019年12月31日)