…沖くんと梨緒・6…

 

 

 

 オクテすぎると笑われたけど。

 私が初めてえっちビデオと言うものを見たのは、まだ恋人だった沖くんと出かけたドライブの戻り道に寄ったご休憩のラブホだった。

 いや、ラブホも初めてだったのよね。だって、今まで色とりどりの電気でキラキラした看板を見ても、まさかそう言うために使う場所だとは思ってなかったのよ。変じゃないの、「えっちするために」とわざわざはいるのよ? そんなのって、そんなのって…ねえ。

 まあ、とにかく私が彼のあとにシャワーを使っている間に、なにやらごそごそと見ていたのよね。せっかくただなんだしさ、とか言って。バスローブを着て、「それのために」部屋に戻ってきた私の目に映ったのは…いわゆるピンクチャンネル? うわ、何なの〜恥ずかしいっ!

 だって、だって、だって〜〜〜っ! いきなり3人よっ! 女の人が…ええと、その、口でしながら、後ろからと言う奴。本当に知らなかったのよっ! まさか後ろからするやり方があることも、そして口でやることも。んでんで、どうしてこの女性、こんなに嬉しそうなのっ!? ああん、怖いよ〜っ!

 思わず目眩がして、クラクラとその場にしゃがみ込んでいた。ああ、何てデリケートで無垢だった私。

 

 


 ――そして。

 

「なんかさ、えげつないんだけど、それ。ほとんど丸見えじゃないのっ…」

 あれから10年以上が過ぎて。やはり私がお風呂から出てくると、沖くんはにやにやとTVをのぞき込んでいた。パジャマに水滴が付かないように髪を拭きながら、隣に座る。あれ? 音が出てないじゃん…と思ったら、どうしてイヤホンで聴いてるのっ!?

「う〜ん、かなりの薄消しだね」
 ボリュームは絞ってあるらしく、私の声は聞こえてるみたい。

「薄消しって…やばくないのコレ。無修正って奴?」

 ぎゃあああ、女の人の…ええと、その…あの部分がマジで見えるんですけど。ひゃあ、こんな風になっていたのか〜見れば見るほどグロいよなあ。普通は見ないもんだから、何だか不思議。どうして男の人ってこんなの見て嬉しいんだろうか?

 音がないから、無声画面で女の人が身悶えているのだけが分かってすごく変。

 これって、高校の制服? にしてはフケてるよな〜この女優さん。お下げ髪に無理ありすぎ。胸も垂れてますが? もうちょっとふるんと綺麗な方がいいなあ。あそこの毛もないけど、剃ってるのかな? それとももともと薄いのかなあ。

「うーん、まずいんじゃないかなあ…」
 そーんなこと言いながらも、にやけている横顔。

 ああん、こんなケバイ化粧の女が好みですか。そりゃ、今の私よりはスタイル良さそうだよな…おっぱいが垂れてると言っても私ほどじゃないし。人前に見せられる裸なのは羨ましいかも。コレで稼げるのかなあ、頑張れば、エッチなことをしてるだけでハワイに別荘が建つかなあ…。

 沖くんとは職場(小学校)で知り合ったから。仕事をてきぱきとこなす姿を最初に見ていた。それから誠実そうな感じと、すごく明るくて一生懸命なところと。私の中の沖くんはすごく素敵なイメージだったのよ。子供たちに囲まれて無邪気に笑う姿なんて、もううっとりするほどで。小学校の先生というイメージそのものだったわ。

 だから、まさかお風呂上がりにバスタオルを頭から被って、扇風機に当たりながらエロビデオ観るなんて…想像出来なかったわ。これが私のだんな様なのよね…。

 

 今年、異動で職場を移った沖くん。新しい学校に慣れるのはそれなりに大変らしい。それに男の先生はすぐに高学年のクラス担任を持たされてしまう。有無を言わせず。新しい職場に新しい子供たち、そして新しい保護者たち。いくら気働きで知られた沖くんだって、辛かったんだろう。
 で、彼の「お楽しみ」が、通勤途中にあるという無人のレンタルAVショップだったのよ。自販機みたいな奴が並んでいて、お金を入れて借りるらしい。やっぱ、男の人でもえっちなビデオを借りるのはそれなりに恥ずかしいようで。それまでは、普通のレンタルで借りていたんだけど、こっちのが気が楽だと喜んでいた。

 …娯楽がえろ。そう思うと悲しいけど、まあ、生身の買い物をされるよりはいいんだろうな。こんな350円や400円で満足してくれれば。う〜ん。

 

 にしても、ここのレンタル、ちょっと質が悪いわよね。とか、どうして、私が批評するのっ! やだなあ、あの純粋だった私はどこに行っちゃったのっ…今では沖くん以上にうるさくなっちゃったわ。

 どうして、こういうのって変わり映えがしないのかしら? もうちょっとシチュエーションがあったりすれば萌えるんだけど、男の人って、そう言うのは必要ないの? 女の子が淫らなカッコして可愛く声を出せばオッケーなのかなあ…。

「沖く〜〜〜〜〜んっ!」

 あああ、何だか楽しくない。もともと男の人と違って、女の人がこんな風に身悶えたり喘いだりするのを観るのがそんなに好きなわけはない。でもウチに1台しかないTVで、コレを観られたら、何となく観るしかないでしょ?

 音がないのって、本当に変だわ。沖くんも何考えてるのかしら、そんなに奥さんに聞かせたくない音声なの? どうせ、女の人が「あーん」って言ってるだけでしょ?

 

 …あ、人が変わった。

 でもやることは同じ。男の人に一枚ずつ脱がされて、そして、おっぱいをもみもみして、パンツの上からくちゅくちゅして。染みてるところを見せるのも一緒。ああ、いいのかしら、嫁入り前の女の子が、こんな風にカメラの前でおまた広げて…うわん、コレも丸見え〜〜〜〜っ! お尻の穴とかまで見えちゃうのがえげつない。こういうのって、もう少しぼかしたほうかそそられない? 違うの?

 それにしても、この子も若いなあ…10代の終わりか、20代の前半かしら? こう言うのは肌つやで分かるわね。どの子もケバイお化粧で顔を誤魔化してあるけど、首筋とか胸のラインとか歳が分かるのよ。あ、結構グラマーだわ。

 

「沖くん…若いって、いいねえ…」

「…え?」

 あ、やだ。聞こえてないと思ったのに、聞いていたのか。いきなり反応されて、どっきりする。思わず目をそらしちゃった。恥ずかしくて。

 でもさ、いつも思うの。沖くんが借りてくるえっちなビデオとか、たまに本棚の裏で見つけるえっちな雑誌とか。みんなみんな…すごいのっ、若くて。画像の悪いビデオならまだいいけど、写真になると肌の艶が違うよね。胸がふるるんとして、ウエストがきゅっとして、えっちな本だって忘れて見入ってしまう。

 どうせなら、若い子の方がいいよね。エッチするんだって、おばさんっぽい体型じゃ嫌かな。沖くんって、どうして若い子が好きなんだろう。私はだんだん老けてくるよ? 仕方ないよね、生きてるんだもん。
 でも、それでも、沖くんにはちゃんと愛情を持って接して欲しいと思ってる。そう言うのって、虫がいい? 愛されるにはそれなりに必要なものがある?

 

 胸の奥がじんとして、心が冷たい。思わず、すすっと身を寄せていた。TVの画面に夢中な人に。

「何? もう濡れてるの…、梨緒は」

 …ひゃんっ! どうしていきなりそう言うことするかなっ!? 夏だから、お風呂上がりは短パン、男物のトランクスがもうちょっと長くなった感じのやつ。それの広がった裾から腕を入れて、いきなり中に入り込んでくる。

「やっ…、やぁっ…んっ!」
 もうっ、そんなことしないでよ。差し込まれた手を外そうと必死で引っ張るのに、私の中を嬉しそうに確かめる手は、どんどん奥を探っていく。もぞもぞとうごめいて、やがて敏感なふくらみを見つけてはじき出した。

「…っ、んんっ…!」

「ふふふ、ぐっしょり…」
 沖くんはわざとそう言うと、濡れた自分の指を私の太股にこすりつける。

「ああ、やだぁ〜。やめてよっ!」

「いいじゃない、梨緒のでしょ? 今日、すごいよ。やっぱ、こう言うの観ると萌えるのかなあ…」

 ごろん。ひっくり返される。畳の上、背中が付いた。ホント、いきなりなんだからっ! ムードというものはないのか、この人にはっ…あ、そんなものを期待しても駄目かしら。そう思っているうちに、脚を開かれて、短パンと下着を一緒に脱がされた。

 そこでちらっと画面を見る。何だろうと思った瞬間に、沖くんは今まで自分の耳に入れていたイヤホンを抜いて、私の両耳に付けた。

「え…?」

 いやっ…何コレっ…! 右から、女の人の喘ぐ声。そして、左からは男の人の声。ビデオの中のやり取りが耳に直接飛び込んでくる。臨場感たっぷり、ひゃあ、すごいかもっ、えろえろだわ。

「やっ…、やめっ…っ!」

 ぐるんとおしりが持ち上がる、かなり恥ずかしい格好。沖くんが内診するみたいに、指を入れて確かめているのが丸見え。胸が顎に張り付いて、苦しいっ…!

 それに。

 脳の壁に響き渡る、女性の嬌声。甘くて、もうどうにでもしてという感じで、アンアン言ってる。ふっと画面を見ると、やだあ、私、同じ格好してるっ! とても、あっちの女性みたいにあられもない声は出せないけど、でもっ…恥ずかしくて、それなのに、ちょっと違うようなっ…。

「どう…? 感じてるんでしょ?」

 いやん、何よぉ…! 沖くん、男優さんと同じことを言ってるっ! 耳元に響いてくる水音。何でこんなにすごいのっ! 特殊なマイクでも使っているのかしら?

 沖くんは何度も何度も画面を確認しながら、同じようにしようとする。ちょっと、やめてよ〜、なんなのっ! そう思うのに、いつもよりももっと感じているのはどうしてだろう。身体の内側がどんどん熱くなって、何かが溢れてくる。止まらないよっ、…どうしよう。そんな風に見ないでっ…、違うのっ、こんなのは私じゃないっ…!

 ぼんやりと…画面を見る。丸映しになる女の人の部分。てらてらと光るピンク色…、どうして、胸とかもあんなに綺麗な色をしてるんだろうなあ。私のは、くすんでいて可愛くない。あそこだって…あんな風に綺麗じゃないわ。

「…もうっ、いやっ…!」

 消えたいくらい情けない。どうして比べるのよっ! 幻滅してるんじゃないの? 本当はあんな風に若くてピチピチしてる方がいいんでしょ? そして、こんな風に甘い声で嬉しそうに喘いだ方が…こんな声、出せないよ〜、あまり大声を出すと、二階に響くし…誰か起きてきたら、大変だしっ…!

「…え? 何っ…?」

 私が本気で嫌がっているのが分かったのだろう。沖くんが不思議そうに訊ねてくる。ああ、もう最低っ…どうして、歳なんて取るんだろう。どうして、若いままで綺麗なままでいられないの? 初めて身体を預けたあのときと気持ちは少しも変わってないんだよ? でも…もう22歳の私には戻れない。どんどん年季の入った身体になっちゃう。

 でも…好きなの。すごく好きなのっ…。こう言うことするのも嫌いじゃないし…それに、普通の時も子供たちを怒鳴り散らしている沖くんだって好き。全部好き。…でもっ…、沖くんは若い子の方がいいの?

「馬鹿…」

 沖くんの手が、私の顎に掛かる。すりすりっとして、くすぐったくて。それから目を細めてふふっと笑う。私が涙目なのに、何なのよ。

「余計なことを考えないの。俺は梨緒が悦んでくれるのが一番嬉しいんだから。もっと夢中になってよ…その方がいいよ?」

「沖くん…?」

 軽くキス。おでこに。やわらかくて、優しくて。ツボに入ったみたいにじんわりとしてくる。沖くんは私を知り尽くしてるのね。

 

「今日…平気なんだよね?」

 本当は駄目なんだけどね、こういうのって。でもちゃんと基礎体温を付けてるから、高温期になったのは分かる。日数的にもそろそろ生理だし…ね、いいよね。

「ん…、んんっ…っ…!」

 いつも思うんだけど、すごく嬉しいなと思うんだ。沖くんとひとつになる時。こんな風に言うのは恥ずかしいけどさ、やっぱ、沖くんがいいなとか思う。こうやって愛し合って、感じあって、特別で。そうだといいなと思う、沖くんも。

 …ねえ、私がこんなに感じていること、気付いてる? すごく気持ちいいよ。

「すげ〜、梨緒の中、あったかい…」
 ゆっくりゆっくり、壁にこすりつけてくる。ううん、あったかいのは、沖くんだよ、すごく熱いよ。恥ずかしい格好で…でも、いいやと思うのは沖くんだけだもん。私にとって男の人は沖くんだけ。他の男の人ってどんなかなとか時々思うけど…まだ、沖くんだけで十分なの。沖くんしかいらないの。

「はぁんっ…、あんっ…やぁんっ…!!」

 もう、何が何だか分からない。滅茶苦茶に動かれて。だんだん、こすれた部分がじわんじわんとしてくる。私の身体が浮かび上がっていく。そんな錯覚。

「梨緒っ…!」

 くうううっと、沖くんが動きを止めて。それから、私の脚を片っぽ持ち上げる。やだ、やっぱ、画面と同じ。私は少し横向きになった。こうすると身体が真ん中にずんずんと突かれている様な気がする。内蔵の方まで入り込んでくるような…それほど深く愛されてる感じ。
 上げた脚が沖くんの肩に乗って、胸を揉まれて、てっぺんをつまみ上げられて。その間も沖くんは動きを止めない。深く深く、ああ、もう頭の奥まで突き抜かれているみたい。

「やっ…、もうっ、だめっ…!」
 感覚が限界値を超える。脚の神経がつま先までピンと張りつめて、そして、ピリピリした痺れを起こす。やがてそれが体中に回り始める。もう駄目、これ以上は駄目っ…!!

「うっ…、梨緒っ…そろそろイクっ…、ほらっ、一緒にっ…!」

 くっと、呻いて。沖くんが私の中から飛び出す。その瞬間、何かがおしりに掛かった。生暖かくて…ひやっ、やだあ、コレって…もしかして?


「うわああっ、また、ティッシュが消えてるっ!!」

 世にも恥ずかしい格好で、沖くんがトイレに駆け込む。そして、がらんがらんとトイレットペーパーを出して…ふき取ってる。ああ、駄目、私は身体が持ち上がらない。

「…はい」
 戻ってきた沖くんの手にティッシュの箱。どこかにあったみたい。もう、子供たちがあちこちに運んじゃうから、えっちのたびに探すのが大変だわ。

「沖くんっ…なんか、すごいの掛かった。あったかくて気持ち悪い…」
 おしりに手を回して拭くと、思っていたよりもさらさらしたそれは肌に吸い込むみたいに消えていった。あれ、べとべとしてるんじゃないんだ。綺麗なんだなあとか思ったり。でも…ヤバイよね。ああん、気を付けないとまた、恐ろしい思いをするわ。

 身体がマジで重い。音声を聞きながらのえっちは何だか二回分やったみたいだ。すごいよなあ、えっちビデオの人たち、こんなの何回もやるのかあ…私はいいや。今のままで十分に幸せ。

 …ま、耳から違う声がするのも、ちょっと変わっていて良かったかもね。ああいう声を出すと男の人は悦ぶのかなあとかちょっと勉強になるし。アブノーマルかなあ…?


 耳からイヤホンを引き抜く。画面ではまた違う女の子がお尻を出してる。沖くんはくすっとこっちを見て笑うと、黙ってTVを消した。


おしまいです。(20030816)

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